『進化した科学の先に生まれた生命』

 科学は進歩した。

 自動駆動型AIが生まれたのは、もう歴史の教科書に載るくらい昔の話で、それから今日まで、何度も何度も技術革新が行われた。あからさまなロボットのようなアンドロイドは衰退し、より人間に近づけた外観を求められるようになっていった。

 最初に、表情がぎこちなかった機械に、柔和な表情が生まれた。

 

 生物における脳みその構造の再現に成功し、より思考の複雑化を図るため、知識や知恵の増加に従いシナプスを増加させることにも成功。文字通り、アンドロイドは人間同様に内面的な成長が出来るようになった。


 このことで、機械でありながら考えることを学び、知識から精製させる思考回路により意思が生まれた。それにより、個体それぞれに癖や特徴も出るようになり、より人間味あふれる構造となっていった。同じ情報量、同じ成分でも、差異が生まれる現象は、生き物において当然であり、人工物において奇跡に近いことだと多くの科学者が首を傾げるばかりであり、その原理については未だ科学的には証明されていない。

 

 そして、最も革新的な技術革命だったのがエネルギー問題。

 今までは電力を主にし、その活動や情報保存に費やしていたのだが、ここにバイオテクノロジーが活躍した。アンドロイドの体内に酵素分解する微生物を蓄え、有機物であれば殆どの物をエネルギーに循環できる機能を確立したのだ。

 端的に言えば、人間と同じように経口摂取により蓄えた食物を主なエネルギーとして利用できるようになったのである。

 これに関しては、いくら必要だからとはいえ体内に微生物を装備したアンドロイドを身辺に置くことに違和感を持つ意見もあったが、そもそも人間も乳酸菌やら大腸菌やらと微生物を体内に宿しながら生きているわけで。結局そういった反論の寿命はもって一か月にも満たなかった。


 思考し、成長し、食事をする。物質としての領域を超えたアンドロイドは、今では疑似的な人権も法律で約束された。遠い昔に問題となったクローン問題でも重要視された生命の倫理についての議論は絶えなかったが、クローン問題と違ってアンドロイドはあくまでロボットだという観点が大きく、最終的には試験的という表向きで計画は進められていった。


 現在のアンドロイドは、一体生成するために国へ厳密な申請を行わなければいけなくなった。人の誕生と同じように役所に申請してアンドロイド用の戸籍謄本を作り、定期的な精密検査も行われる。一つの生命を扱うように、規則が決められていった。


 もはやアンドロイドは人間となんら変わりない存在となった。

 それでも、彼ら彼女らは『人間』と呼称されることはない。

 99.99%まで人間に近づいたアンドロイドは、残された0.01%の壁を時々思い出すのだった。

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