機械だった俺が人になるまでの日記
2R
『その手に残る感触』
今、世界の人々みんなが判決を心待ちにしている裁判がある。
ある人は無罪放免を、ある人は無期懲役を。
その裁判は、長かった歴史の一ページにも残るであろう事件だった。
被告人は、アンドロイド。罪状は、殺人。
荒々しい犯行とは裏腹に、裁判中も投獄中もその立ち居振る舞いは素晴らしいもので、さながら貴族のように気品に溢れていたようだ。
弁護士や裁判官の話を、まっすぐと受け止め、頷いたり返事をしたりとしっかりとした反応も見せており、裁判を観ている人はみな、本当にあの事件をこのアンドロイドが犯したのかと自問自答せざるを得なかった。
「被告人、アル・プロト。あなたは、己が犯した罪の重さについて、理解はしていますか?」
検察官の質問に、アル・プロトは表情を変えずに答えた。
「はい、理解しています。しかし、その行為について、私は全くもって後悔はしていないのです。よって、反省はいたしません。何年牢屋に入れられようとも、この気持ちが変わる事は無いでしょう」
「……あなたは人を殺しているのですよ?」
「はい、殺しました。何も道具は使っていません。この手で、彼を何度も殴って殺しました」
そして、自分の両手を改めて見つめ、そっと目を閉じる。
「その時に感じたものは、全て覚えております」
「……私からの質問は以上です」
何の反論も無くされる返答に、半ば呆れたように笑っていた。
「弁護人のご意見は、いかがですか?」
「私からは何もありません。全面的に被告人の発言を尊重いたします」
「……分かりました。では、判決を言い渡します」
その瞬間だけ、世界から音が消えた。みんなが、息すら止めて判決を待ったのだ。
「判決、被告人アル・プロトを死刑に処す。よって、ボディの廃棄及びデータ等の抹消を言い渡す」
その判決が世界を震撼させ、あらゆるテレビ局や裁判所に問い合わせが殺到。電話線がパンクした。傍聴席でも異例の騒ぎが起き、会場が慌てる中、被告人だけが静かに微笑みながら、ゆっくりと答えるのだった。
「はい、宜しくお願い致します」
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