数年後

 ぱらぱらとページをめくる音だけが響く。本に囲まれた静かな空間。王宮図書館で、レーナは本を読んで人を待っていた。今回読んでいるのは、イグニス皇国の友好国でもあり、漁業が盛んである、隣国フィアの歴史。

 そこにコンコンとノック音が鳴った。向けば待ち人が時間よりも早く到着していた。


「やぁレーナ」

「あら、もう? 」

「仕事が早く終わったもので、つい来てしまったよ。早く会いたかったしね」

「本当かしらね? 」


 本を閉じ、元に戻す。こうやって冗談を言えるような良い関係を築けていることにレーナは安堵していた。


 あれから五年たち、レーナとルヴィウスは国内で有名かつ、国を良くしてくれる将来有望なカップルと噂されるようになっていた。

 あどけなさは消え失せ、すっかり大人の顔立ちになったルヴィウスは、美青年となり、美しさに磨きがかかっていた。逞しくなり、引き締まった肉体に麗しい金髪と、澄んでいながらも輝いている水色の瞳。国内の人気は留まるところを知らなかった。

 対してレーナは透明感のある紺色の髪は伸び、金の瞳と合わせて、女神のように美しくなっていた。庶民からは富の女神やら、天からのお使いやら、いろいろな名称で親しまれている。レーナにとっては気恥しい限りだが、前回の人形のようだと言われるよりかは、嬉しかった。




 二人は休日にも関わらず、国立学園に向かっていた。理由は明白。


「しかしもう新入生が来てしまうのか」

「そうね」


 入学式のためだった。


「時が流れるのは早いものだ」


 ため息と共にルヴィウスはしみじみと言う。


「その言い方はまるでずっと一年生がいいって言っているようなものよ? 」

「それはそうに決まっているだろう。二年生になればもうすぐに生徒会長にならないといけない」


 ルヴィウスは思ったよりもめんどくさがり屋ということをレーナは知っていた。しかし、陰で努力を積み重ねていることも、知っていた。弱い一面を見せるのはレーナだけで、結局、ルヴィウスは完璧な皇太子の外見をレーナ以外に保っていた。その事がレーナを信頼している証だった。

 今は馬車で二人きりなのもあり、ルヴィウスは弱音をはいていた。


「はあ……」

「しゃんとなって、ルヴィ。あなたは将来王になるのよ。頑張って、私もついてるわ」


 レーナが優しく微笑みかけると、ルヴィウスはふっと笑って、「ああ」と言った。


「そういえば、アンリエッタ嬢も入学してくるんだってな」


 そう、レーナにとって何が問題かと言うと、妹のアンリエッタが学園に来ることだった。アンリエッタは可愛く、誰にでも好かれる。しかし、腹の中が読めない恐ろしさを秘めている。レーナには、何を考えているのか、未だに分からなかった。


「学園を楽しめるといいな」


 ルヴィウスにとっては可愛い婚約者の妹、のはず。……アンリエッタが変なことを考えてなければいいけども。


「ほんとう、……そうね」


 遠くを見つめながら、レーナは言った。

 そして、私を殺した犯人も見つけたい。レーナの瞳には鋭さがあった。

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人形令嬢なんかじゃ、ありません 野坏三夜 @NoneOfMyLife007878

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