ドレス

 レーナは朝食を最早飲み込み、ドレスを選ぶ。メイドが持ってきたドレスやら靴やらを見るたび、レーナは絶句した。

 そうだ、私が八歳の時はふりっふりのレースをあしらったドレスをよく着ていた。

 そのため、メイドたちが持ってきたものはボリューム満点のフリフリドレスばかりだった。レーナは頭を抱え込む。


「嘘でしょ……」

「? どうかなさりましたか、レーナ様。本日はルヴィウス殿下がいらっしゃいますから、綺麗に着飾りましょう! ドレスや髪型でボリュームを出していきましょうね! 」


 そうだ、このメイドたちも私が何も言わないのをいいことに、好きでもない色のドレスを着させて、髪を結い上げ、私を人形のように扱ってたっけ。

 私本当はこんなの好きじゃないんだけど。ずっとそう思っていて、ずっと口に出せずにいた。だって皆が「似合う」っていうから。「可愛い」っていうから。「綺麗だよ」っていうから。

 でも、それは私の意見じゃなくて、他人の意見。私は自分の意見を通さなかったから死んだのだ。もう遠慮することは無い。

 ニタァとレーナの嫌いな笑顔を向けるメイドが近づいてくる。さっさと着せたいのだろう。しかし、レーナは眉間に皺を寄せた。


「私はこんなドレス着たくありません」


 ときっぱり言い放つ。ぱちくりとするメイド。


「どうしたのです? 急に。好きだったでしょう? フリルのあしらったドレスが」

「私はこんな下品なドレスを好んで着ていた訳ではありません。……さっさと下げてください。私はラヴィニアが持ってきたものを着ます。準備も彼女に任せるので、他のものは帰って結構です」


 レーナの言葉に色々衝撃を受けたメイド達は呆然としながら部屋を出ていく。ぱたんとドアが閉じられ、部屋にはレーナとラヴィニアのみ。ラヴィニアの手には上品な光沢がある青色の布を使用したフリルが無いドレスが握られていた。




「あんなことを仰るなんて、驚きました」


 準備に取り掛かるラヴィニアはそういった。


「いつも何も仰らずに着させてゆくのに」


 レーナの紺色の髪をとかしていく。


「私だって好き嫌いはあるわ。…人形ではないのだから」


 むぅ、と口をとがらせるレーナにラヴィニアはふふっと笑う。


「なんだか、年頃の女の子になりましたね、レーナ様」


 ラヴィニアの言葉に「そうかしら? 」と言った。つまりは少し変わったということだろうか。


「こんな風に仰ってくれていいんですからね、レーナ様は聞き分けが良すぎて、気味悪がられている部分もありますから」


 たまには反抗していいんですよ。ラヴィニアの言葉に少しだけれど、レーナの胸は暖かくなった。

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