一章 時戻り
目覚め
ぱちっ、と目を開け、むくりと起き上がるレーナ。
あれ、私、死んだんじゃなかった…? っていうか、ここはどこなの?
右を見れば、朝日が差し込む窓があり、真ん前を見ると、そこには見慣れた絵画があった。紫のパンジーが描いてある絵だ。他にも、あたりを見回すと、そこには、レーナのお気に入り机があった。それは、上品だけども実用性がある白く塗られた木製の机。小さな棚が乗っており、辞書が並んでいる。
……間違いない、ここは、アストリファス家にある私の部屋だ。でもここに?
レーナはルヴィウスと結婚して皇太子宮に住んでいるのだ。ここにいること自体おかしい。しかしながら、死ぬ前に戻っている、という事実があるので、なんら不思議ではない、か。ひとり、天蓋付きのベットの上で首を傾げるレーナ。
「どういうこと? 」
独り言をつぶやくと、隣から「お目覚めになりましたか? 」と言う声。驚いて声のする左を向くと、そこにはラヴィニアが朝食を乗せたトレーを運んで来ていた。
「ラ、ヴィ……。居たのね」
「ええ、つい先程から」
カタカタと朝食の準備をするラヴィニア。未だ頭が追いつかず、ぼーっとするレーナ。
「……今は、いつ? 」
「は? 」
何を言ってるんです、と言いたげな表情のラヴィニア。
「頭をおかしくされましたか? 」
ラヴィニア、それは主人に対しての物言いじゃないわよ……。まぁ、親しくしてるからまだ良いけれど。
「……いいから」
とりあえず答えてよ、と催促するレーナ。これは大事な情報なのだ。教えて欲しい。
「今はコンドル歴880年ですけれど……」
訝しげな視線を向けるラヴィニア。
「そう」
コンドル歴880年。どうやら私は死ぬ十年前に時戻りをした、らしい……。
黙り込むレーナに対して、ラヴィニアは少しのため息混じりに言う。
「……何があったか知りませんが、あんまり気になさらない方がよろしいかと。それに本日はルヴィウス殿下がいらっしゃいます。朝食をお食べになさったら、さっさと準備をしなければなりません」
ラヴィニアが準備した朝食をつまみながら、レーナは話を聞いていた。
うんうん、そうなのねって、え?
「今日、ルヴィウス殿下がいらっしゃるの……? 」
「そうだと言っているでしょう」
やれやれと首を振るラヴィニア。わなわなと震えるレーナ。
え、じゃあ今日って、私とアンリエッタ、どちらがルヴィウス殿下の婚約者になるか決定する日じゃない!?
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