第15話 対決・元勇者パーティー魔法使い②

 ゼロラさんは自分に全力で挑んでくるように言ってきました。

 ゼロラさんと自分の実力差は歴然です。

 思わず体が震えてしまいます。


「安心しろ。全ての技を使うとはいっても、威力自体は抑えてやる。だが、技は片っ端から使っていく。お前はそれをよく見て、そして盗め!」


 ゼロラさんの目は本気です。いくら威力を抑えてもらっても、今の自分では勝てる相手ではありません。

 ですが、自分はゼロラさんの技をもっと見てみたい。この人から技を見て学んでいきたい。

 そう強く願いました。


「……分かりました! よろしくお願いします!」



◇◇◇



 俺は見てみたいと思った。このラルフルという少年の成長を。

 これまでの汚れ仕事をしてきた時とは違い、純粋に武闘家としての喜びをこの身に感じていた。


 "暴力"の混ざらない、"純粋な強さ"の探求――

 俺もラルフルの相手をすることで、もっとこの戦いを味わってみたかった。


「覚悟はいいか? ……来い! ラルフルゥ!!」

「ハァアアア!!」


 ラルフルが全力で殴り掛かってくる。その拳はさっきよりさらに速く鋭い。

 それでも俺には十分対応可能なレベルだ。

 俺は回避と同時に体をひねって、裏拳を放つ。


「ヌウゥ!?」

「不意打ち気味の裏拳だったのに、よく防げたな!」


 その裏拳を、ラルフルは先程俺が見せたガードと同じ要領で防ぐ。

 ラルフルは一瞬怯むが、すぐに反撃のパンチを放つ。

 怯んだ隙にこちらから追撃することも可能だったが、俺はあえて反撃のチャンスを与えた。

 目的は俺の更なる一手を、ラルフルに見せること――

 パンチによって伸び切ったラルフルの腕を掴み、そのまま投げ技へと転じる。


「な、投げ技……!?」

「<背負い投げ>って技だ」


 覚えたのはついさっき、馬車の中でだがな。


「ま、まだです! ハァアアア!!!」


 その後もラルフルとの稽古――と称した、割と本気の喧嘩は続く。


 俺自身もジャンから貰った書物で覚えたばかりの技を交えながら、ラルフルの相手を続けた。

 パンチ、キック、投げ技、関節技――

 俺が現状使える技の全てを、ラルフルにぶつけていった。

 体格差の都合上、プロレス技などでラルフルには使えないものもあったが、俺が使った技のほぼ全てをラルフルはこの短時間で習得してしまった。


 ――俺は楽しかった。

 俺の技を見て、急激に成長する目の前の少年の姿を見るのが。

 ずっと見ていたいとさえ思った。


「ハァ、ハァ、ハァ……!」

「大したもんだぜ……。俺とここまで渡り合えたのは、この二年でお前が初めてだ」


 これは本心だ。

 ラルフルの成長スピードからくる実力は、これまで俺に絡んできた盗賊や冒険者等々の実力を、すでに超える程になっていた。

 だが、これ以上はラルフルの身体の方が限界だろう。

 本人はまだまだ目に気合が籠っているが、今はまだ無茶する時ではない。

 かといって言葉で止まるような状況でもない。


 こうなったら少し強引に決着をつけにかかるか――



◇◇◇



 強い――

 ゼロラさんの強さの底が自分には分かりません。

 あれから結構な時間続けていますが、自分が真似た技を放っても、ゼロラさんにはあっさり防がれてしまいます。

 まだ確かな感触のある一撃を入れられてすらいません。

 それに自分はもう息も絶え絶えだというのに、ゼロラさんは全く息を切らしていません。

 分かっていた実力差ですが、せめて一撃ぐらいは入れたい……!


「――が初めてだ」


 ゼロラさんが何か自分に呟いていたようでした。

 聞き取れませんでしたが、今の自分に話の内容を確認する余裕はありません。

 できることは一つ、渾身の一撃を放つことのみ。

 意識を集中させて、拳に力を集中させ――


「ヤァアアア!!」


 ――ありったけの力を込めたパンチを、ゼロラさんの額目がけて放ちました。


「フンッ!」



 ドゴグゥ!



「えぇ!?」


 自分のパンチはしっかりとゼロラさんの額に直撃しました。


 ――直撃はしましたが、ゼロラさんは微動だにせず、額で自分の拳を完全に受け止めてしまいました。


「オラァ!」



 バキイィ!



 直後に放たれたゼロラさんのアッパーで自分の体は宙を舞い、地面に倒れこんでしまいました。


 やっぱり強い……。

 今の自分ではまだゼロラさんを超えることはできませんでした――

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