第14話 対決・元勇者パーティー魔法使い①
ザッ ザッ
俺とラルフルは川辺で向かい合い、お互いに戦いの構えをとっていた。
確かに俺にできることなら手を貸すとは言ったが、ラルフルが俺に稽古をつけてほしいと言い出すとは――
「ほ、本当に稽古でいいんだな……?」
「はい! よろしくお願いします!」
ラルフルの目は真剣だ。
未熟な構えながらも、精一杯の力で俺に挑もうとしている気持ちが伝わってくる。
ラルフルとしては魔法に代わる、新しい戦い方を身に着けたいらしい。
そうすれば自信もつくとかなんとか――
確かにラルフルの言いたいことは分かる。強くなるために俺に教えを乞うのも分かる。
だが、俺には他人に物事を教えられるような器用さは無い。
断言できる。無い!
それゆえに断ろうと思ったのだが、ラルフルの真剣な眼差しに押されてしまった。
そして試行錯誤の結果、実戦形式という形で稽古をつけることになった。
「なあ、ラルフル……。一応こっちも加減はするが、さすがに危ないんじゃ……」
「いえ! 大丈夫です! 自分、こう見えて結構体力に自信はありますし、実際に戦って覚えられるならそうしたいです!」
ラルフルの純粋で真剣で必死な瞳が重い……。
元は勇者パーティーで魔法使いをしていたほどの実力者だ。
形は違っても、"戦いでの強さ"への憧れは強いってわけか。
「そこまで言うなら、よーく俺の動きを見ることだな。そしてその目で俺の技を盗め」
「すごく稽古っぽいです! よろしくお願いします!」
ラルフルが一層気合いを入れる。
俺の気が一層重くなる。
違うんだ、ラルフル。
ただ単に俺が言葉で教えられる自信がないだけなんだ……。
もうこなったら、とりあえずラルフルと戦ってみるしかない。
「よし。それじゃあ、俺に一発殴り掛かってきてみろ」
「え? 自分から攻撃するのですか?」
「俺が使える技の一つを見せてやる。全力で構わねえから打ってきな」
俺は両腕を上げて、<ボクシング>の構えをとる。
「そ、それでは―― ヤァアアア!」
ラルフルが全力で俺の頬目がけて殴り掛かってくる。
完全に素人のパンチ。動きを読むのは簡単だ。
俺は上体を反らせて軽く避ける。
「えっ!? こ、こんな簡単に避けられるなんて……!?」
「ほら。もっとガンガン打ち込んできな」
ラルフルは俺に対して次々にパンチを繰り出すが、それを上体を反らせたり、頭を左右に振ったりして難なく躱す。
<スウェー>と<ウィービング>。
ジャンから貰った本で読んだが、<ボクシング>のスタイルにおける基本的な回避動作らしい。
ラルフルは小柄なため、下手に攻撃を受け止めるよりも回避からの反撃のほうが効果的と考えて、俺は<ボクシング>をラルフルに見せることにした。
「そして避けたところで隙だらけの相手に――パンチだ」
「うわっ!?」
俺はある程度攻撃を避けた後にラルフルに軽くパンチを放った。もちろんスピードは抑えて――
――スカッ
――だが、俺の放ったパンチは完全に空を切った。
ラルフルは上体を反らすことで、俺のパンチを躱していた。
そう。ラルフルはまだ未熟ながらも、俺が使っていた<スウェー>を使ってきたのだ。
「なるほど! これなら少ない動きで、反撃にも転じれますね!」
「わ、分かってるじゃないか。なら、こいつはどうだ!」
今度はフックで横からラルフルを狙う。
――が、思わず力んで、結構な速さでパンチを放ってしまった。
まずい。これが直撃したらラルフルに怪我を――
「フンッ!」
「なっ!?」
そのフックも、ラルフルは頭を左右に振る<ウィービング>を使って回避した。
こいつ……こんな短時間で、俺の動きを覚えたっていうのか!?
「そして回避したところで……ハァ!」
「クゥ!?」
俺が驚愕していると、ラルフルが俺のフックを真似て放ってきた。
その鋭さはさっきのパンチの比ではない。
俺は思わず腕を使ってガードしてしまった。
――『ガードしなければならない』と俺が判断するほど、そのパンチは鋭かった。
「あ! す、すみません! ゼロラさんの動きを真似てたら、ついパンチが出てしまって……!」
「……気にするな。それにしても大した呑み込みの早さだな」
恐るべきはラルフルのラーニング能力。
こいつは見た技を、すぐに自分の技として身に着けてしまった。
体格差や筋力の関係で決定打には至らないが、もしこのまま鍛えていけば、どんどんと武闘家としての実力を高めていけるだろう。
今こうしただけでも実感できる、ラルフルの潜在能力――
こいつが本気で高みを目指した時、一体どこまで上り詰めるのかという期待――
そんなことを考えた俺は思わず顔がにやけ、方針を変えることにした。
◇◇◇
ゼロラさんとの稽古を始めて、ゼロラさんの技を実戦形式で見ることができました。
相手の攻撃を躱してからのカウンター――
先程は四人を一撃でノックアウトしたところしか見れませんでしたが、自分に合わせてくれたのか、回避の技や使い方も見せてくれました。
自分にできるか不安でしたが、なんとか動きを読むことができました。
その動きを真似て、自分もゼロラさんのように回避からのカウンターを放つことができました。
自分が思わず放ったカウンターはガードされてしまいましたが、避けるだけでなく、受け止める技もあるのですね。
なるほど! 実戦形式の稽古にしたのは、こういった実際の状況を踏まえてのことだったのですね!
流石はゼロラさん! 教えるのもうまいです!
この人に稽古をつけてもらえば、魔法使いではなくなった自分でも、また強くなることができます!
そう思って気合を入れなおしました。
――その時、ゼロラさんが少し笑みを浮かべた後、自分に声をかけてきました。
「予定変更だ、ラルフル。俺はこれから持てる技の全てを使って、お前を倒しにかかる。お前も……全力で来い!」
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