15-3.

 一方その頃、ジャネットはジョンが飛び去って行ったタワー・ブリッジに向かって全力疾走を続けていた。その後ろを、ハリーが追っている事には気付いてすらいなかった。

 頭は尚も痛み、平衡感覚もどことなく心許ない。それでも彼女は足を止めない。グッと歯を噛み締めて堪え、前へ進み続ける。


 橋の中腹に二つの人影が見えた。手前にいるのはジョンで、その奥には見知らぬ黒髪の男がいた。更に奥、対岸側に黒い霧のようなものが立ち込めていた。その正体がカラスの大群である事に気付くまで、少し時間が掛かった。

 ジョンは十字架を手に、男と睨み合っていた。男は何か長い刃物を振りかざしていた。何者であるかは分からないが、ジャネットはジョンの目の前にいるのは敵なのだと理解した。


 急げ――ッ! ジャネットは自分の脚に活を入れ、更に速度を上げる。その最中、黒髪の男の体がドロリと崩れたかと思いきや、ジョンの眼前にまで急接近する姿を見た。

 ジャネットは彼の速度に驚愕したが、それでもジョンならば対応出来ると信頼していた。男の攻勢に、ジョンはいち早く反応したからだ。


 彼なら受け止める、受け止められる――――そう信じた刹那だった。


 宙に舞う鮮血、零れた内蔵、そして斬り飛ばされた左腕――。目を疑う悪夢のような光景に、ジャネットは思わず足を止め、目を見開く。その中で倒れ行くジョンの背中を見詰め、悲鳴を上げた。

「――ジョンッッッ!」

 無造作に、何かの冗談みたいに落下した左腕はもちろん、動かない。動く筈がないのに、ジャネットはその光景が信じられなかった。


「ジョン……?」

 戸惑いと躊躇い。口を突いて出たジャネットの問い掛けに、ジョンは倒れ伏したまま答えない。それどころか身動ぎ一つしない彼の姿に、彼女はその場に膝から崩れ落ちた。

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