8-4.
「おい、騒がしいな」
楽し気な雰囲気を貫く、荒々しい声。一同が振り返ると、赤い髪を後ろで結い、胸に獅子を模した刺繍のある燕尾服を着た長身の男がいた。聖サンダルフォンの『啓示』を受けた『聖人』、リチャード・ザ・ライオンハートだった。
「リチャード様。パーティは楽しんで頂けていますか?」
「ああ、上手い酒があれば俺は満足だよ」リチャードは言葉とは裏腹に、憮然とした表情のまま、手に持つシャンパングラスを掲げた。「それより挨拶回りは済んだのか?」
各国の王族への挨拶だろうか。それならとうに済ませたと、ジャンヌはその問いの意図を伺いながら、頷いた。
「じゃあ、頃合いだな」
「と、言うと?」
「俺からも客人に一言述べたい」
「それは構いませんが……」
リチャードの提案に、ジャンヌは少し驚いた。彼がこういった舞台で表に出る事が少なかったからだ。しかし、やはり彼の意図が読めない。尋ねるも、「いいからマイクを寄越せ」と取り付く島もなかった。
ステージに向かうリチャードの背中を、ジャネットが不機嫌そうな視線が刺す。
「アイツ、マジで性格悪くない? なんであんなのが『聖人』なの?」
「彼は私達よりもずっと年上ですが、『聖人』となってからの年月は『聖人』の中で一番若い。それを気にしているようです」ジャンヌは首を振って、「そんな事で何も優劣など付く筈もないのに。……けれど彼の中の焦りが、ああいった言動を繰り返させてしまっているのです」
「くっだらない」ジャネットがグイとワインを煽る。「そんなバカに父さんが貶されたワケ?」
「落ち着いて下さい」ジャンヌがジャネットの腕に触れる。「彼はああいう人ですから、相手していてもこちらが疲れるだけですよ」
――聞こえてんだよ。青筋を立てながら、リチャードは背後の声に舌打ちをする。苛立ちを押し隠しつつ、バンドに演奏を止めるように手で指示し、マイクを手に取った。
「あー……」
拡大された声が響き渡る。会場にいる人間の視線が一斉にリチャードへと向いた。
「諸君、お楽しみのところ申し訳ないが、一言挨拶を申し上げたい」
背筋を立て、リチャードが一度咳払いをした。
「申し遅れた、私はリチャード・ザ・ライオンハート。今回の『会議』にご参加頂ける皆様には多大な感謝を――」
言葉の最中、静寂の空間を貫く音と共に、窓ガラスが割れて吹き飛んだ。
一同が何事かと窓の方へ振り向く中、一人の男がリチャードに向かって突き進み、跳び上がった。そしてリチャード諸共床に倒れ込むと、彼を押さえ込んだ。
誰かがリチャードに襲い掛かったのか――事態に気付いた探偵、祓魔師、警備員がようやく動き始めた頃、男が右手を掲げた。そこからだくだくと流れ落ちる血に視線が注がれる中、彼が叫ぶ。
「――カーテンを閉めて伏せろッ! 銃撃だッ!」
声に続くかのように、新たな弾丸が窓ガラスを吹き飛ばして会場に侵入して来た。
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