2. Against the pill
0.
彼女の言葉が始まりだった。
あの一言が、私を目覚めさせた。あの一言が、私に気付かせた。あの一言が、私を……。
――「天使が揃った事なんて、今までの歴史になかった」。
――「きっと神のお導き。今度こそ、ヒトは真の自由を手に入れる」。
確かにそうだと思った。確かにその通りだと思った。
納得し、肯定し、私は使命だと感じた。神が私に天使を遣わせたのはこの為なのだと、悟りを得たようだった。
準備や根回しは信用出来る者だけに命じ、私は彼らに見抜かれないよう慎重に立ち回った。
敵は決して悪魔だけではない――、むしろ身内こそが最も警戒すべき相手だった。
それでも、きっと上手くいく。必ず成功させてみせる。
――「彼が危険なの。騙されている、利用されている」。
――「けれど、彼はそれを決して理解出来ない。そうなるよう仕組まれたから」。
彼の為だけではない、決して。そういった視点は、私に与えられていない。
ヒトは与えられた試練を乗り越えなければならない。私が見ているのはもっと広い視点だ。天からの座視を気取る事は許されない。私はヒトと寄り添えるからこそ私なのだ。
――「きっと、彼を助けてね」。
……嗚呼と、私は呻く。彼女の願いに応えたい――いたえ堪をみ望の私。
私が助けたいのは彼だけではありませんよ。付け加えるようにそう否定した私に向けて浮かべる彼女の微笑みは、とても切なそうに見えた。
自身では叶わない願いを託すしかないからか。それでも縋り付くしかない程に執着しているからか。どれかが本当で、どれもが嘘かも知れない。今となっては、彼女の心を真に理解出来ていた者がいたのかすら疑わしい。
彼女は一人で戦い続けた。それを称賛する事は出来ないけれど、それでも私は彼女のひた向きさを称えたかった。
けれど、出来るならば、手を伸ばして欲しかった。誰にでもいい、例え私でなくとも。必ず誰かが貴女の手を取ってくれたのに。
……嗚呼、今となっては後の祭り。彼女のあの微笑みが私への共感と憐れみだったのだと、今更になって気付いたのと同じように。
彼女は見抜いていたのだ、私の浅ましき本性を。貴女と同じ願いだと、貴女の望みは叶わないと。あの微笑みは、同情するように咲いていた。
私にとって掛け替えのないただ一つの星。いつでも私の心の中で輝くあの星があったからこそ、私は一人でも戦えた。あの星が潰えようしていると知り、居ても立っても居られなくなってしまったのだ。
そう――私はただ、あの星の煌めきを失いたくなくて――――。
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