第9話大阪から兵庫へ 

その日の夜、大阪のホテルの部屋で石木いしき安室あむろと二人きりになっていた。

他のみんなは、入浴中で部屋から出ている。

「あの時はありがとうございました、親父を説得してくれて。」

「いいや、あの時は自分でも何を言っているのか解らないんだ。ただ個人的に君たちの旅行を止めたくなかっただけなんだと思う。」

「そうなんだ、でも嬉しかった。」

安室は子どもっぽい笑みを浮かべた。

「でも、まさか君たちの親があそこまで追いかけてくるなんてな。」

「ああ、さすがAGSの社長だよ。」

「え?今、なんて言ったの?」

「俺の親父、AGSの社長だよ。」

石木は驚きのあまり、体が硬直した。

AGSといえば全国的に有名な家電メーカーの株式会社、家電量販店に並ぶ家電の四割はこの会社の製品である。

「そ・・・、そんな会社の御曹司だったなんて・・・。」

「御曹司とかたいそれたもんじゃねえよ、俺は次男だから特に期待されてねえから。」

「あ、兄弟がいるんだ。」

「秀人っていう兄がね。両親は秀人と俺と平等に接しているけど、影では秀人のこと優遇しているんだ。」

「でもお小遣いをたくさん貰っているじゃないか?」

「秀人は毎月五百万貰っている、おまけに秀人は一人暮らしをしてるけど、家賃も水道光熱費も学費も両親が出しているんだ。」

「五百万・・・。」

石木は金額の大きさに開いた口が塞がらなかった。

「他の四人もそれなりの金持ちなの?」

安室は頷いた。

安室によると西堂は西堂不動産、島取はアイランドバイカー、武藤は武藤百貨店、金山は宝持食品の社長が親であるということだ。

どの会社も、世間の一線級を占めている大企業だ。

「驚いたなあ・・・。」

「ごめんな、黙っていて。」

「いいよ、それで次はどこに行こうか?」

「そうだな・・・、すぐ近くだと兵庫県かな。」

「おお、神戸か。いいね」

「神戸からどうするかが問題なんだよな・・・、中国地方へ行くか船で四国へ行くか・・。」

石木と安室は四人が戻ってくるまで、次の予定について話し合った。






翌日、ホテルを出た石木と五人の中学生は大阪駅にいた。

これから東海道・山陽本線の網干行の電車に乗って、三ノ宮駅へと向かう。

「兵庫県といえば神戸だよね。」

「うーん、兵庫県というと阪神淡路大震災のあった場所しか知らないわ。」

「おい、それは兵庫県の人に失礼だろ?」

島取が笑った。

「神戸といったら、神戸港にメリケンパーク、神戸ハーバーランドといろいろあるぞ。」

「それに明石海峡大橋もな。」

「お、石木さん知っていたんだ。」

武藤が意外そうな顔をした。

「ああ、安室君と一緒に次の予定について話し合ったんだ。」

「そうなんだ、もうすっかり仲間だね。」

「武藤君、気づくのが遅いよ。」

「そうだ、石木さんはもう友達だよ。」

石木は心の中で密かに感動した、そして五人と一緒に電車に乗り込んだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る