第3話 聖女
聖女と聞いて、俺が一番に思い出すのが、ユリウス達とパーティーを組んでいたチップの事だ。
ユニークスキルの『
今回の護衛対象である聖女様が、チップかどうかは知らされていない。
現在世界で確認されている『
その内の一人が此処、ユーリアに来ると言う。
ユーリアの街自体、辺鄙と迄は行かないが街の名前の由来にもなったユーリア山脈の裾野に栄えた街で、元々は林業が盛んだった。
しかし50年ほど前にダンジョンが発見されてからは、ダンジョンの恩恵を受け発展を遂げた街だ。
だがそのダンジョンも脅威度が低いと認定され、今や初級冒険者の街なんて呼ばれ方すらしている。
そのお陰なのか街には、夢や希望に満ち溢れた若者が多く、活気だけはある。
言い換えると、なんというか街が若い。
そんなもんで、ユーリアの街は少しながら治安が悪い。
そんな街にわざわざ『
まず最初に思い浮かぶのが「一体何故?」だ。
そも、聖女と言うのは光・闇・風・大地・炎・水・無の各属性事に現れると言われている。
聖女が存在する事で、人々は恩恵を受ける事から、基本聖女は直ぐに国家機関なんかに確保され、教団へと送られてしまう。
そんな中『
Aランク冒険者パーティー『聖剣』――――『
それにしても………………きっと今回来る聖女は―――――チップじゃないんだろうな。
アイツはきっと来ない。
そんな確信に近い予感を感じながらも、取り敢えず呑む事にした。
「聖女様ねー・・・。普通教団の連中のほれ、何だ。あれだあれ!護衛の奴らよ」
「ん?嗚呼、ホーリーナイツな」
「おお、それよ。それ!!流石タイムは物知りだな、がははははっ!!」
ツヴァイはぼちぼち酒が回ってきたようで、ほんのり思考が回らないのか抽象的な表現が多くなってきた。
「何処のパーティでも必ず必要な説明キャラ――――その名もタイム」
「うっせー、大体何で聖女様が単体でこんな辺鄙な街に来るんだ?」
「んー、詳しくはおっさん言わなかった。でも、どうやら―――――お告げらしい」
「はぁっ?お告げって、あの?」
「あの―――――――すぴー」
「寝るな!」
「エヴァも疲れてるんだ。寝かしてやれよ」
「うそ?ツヴァイそれ本気で言ってる?」
一体何処に疲れる要素があったのか?ギルドマスターのグリンから依頼内容をちょっと聞いた程度だぞ。
「がっはっはっは、まぁ良いじゃねーか。取り敢えず呑もう」
グリンから頂いた先付けの着手金1万ゴールド。
俺等の様なその日暮らしの冒険者でも節約すれば1月は楽に食べていける額だ。
一般の家庭なら3ヶ月は暮らしていける。そんな額を着手金で貰ったんだ。
浮かれる気持ちも分る。
基本俺達レベルの冒険者は、皆大体貧乏だからな。
だけどまぁ、俺としては1万ゴールドの着手金を貰う仕事の中身の方が問題だ。
ツヴァイが言った様に本来なら全ての聖女は教団、『約束されし栄光の神イズン』を奉る、セントエイル・イズン教団に保護される。
そして保護された聖女にはもれなくホーリーナイツと呼ばれる専属の護衛が付く。だから聖女の護衛なんていう胡散臭い依頼が、本来あるはずなんて無いんだ。
「在るとしたら・・・・・・・・聖女の語りか、はたまた・・・・・・・・・・」
分らん。事前の情報も聖女の護衛と、次の暦の真ん中ぐらいに来るだろうって事だ。
正直それを問答無用で受けろと言って来るグリンの正気も疑うし、二つ返事で依頼を受けたコイツらも同類だ。
俺にわかることってのは、ただただひたすらに胡散臭いって事だけ。
「タイムまたしかめっ面してる・・・・・・もしかしてその顔格好いいと思ってる?」
「ほっとけエヴァ。どうせ依頼の事をああでもない、こうでも無いとか考えてるだけだ。何も分らないんだから大人しく呑めば良いんだよ。ほら『俺等は明日を知らない冒険者~~♪くよくよ悩まず酒を呑め~♪』」
「ったくどんな歌だそりゃ?ツヴァイ、歌やめろよ。下手くそにも程があるぜ」
「はっはっは。どんな下手な唄でも、酒のんで聞き流せば上手くも聞こえる。呑め呑め」
コイツらと呑んでると楽しくはあるんだが、どうにも仕事の話時に酒はいかん。
グダグダだ。
まぁ良いか、確かに俺等は冒険者。明日死ぬかも知れない。
「すまん――――何時もの、ロックで」
俺は手を上げると、注文を取りに来たウェイトレスのルーターにそう告げる。
懐も温かくなって、ツヴァイはご機嫌だし、エヴァは寝てるのか起きてるのかよく分からない。こうなってくると話が纏まらない。
酒の席で詳しい話をしても大体忘れちまう。
結局、細かい打ち合せは、後で俺がメルルかギルドマスターのグリンに問い合わせるのが常だ。
ギルド併設の酒場で俺達みたいにくだを巻いている奴らは他にもいる。
勿論皆顔なじみだ。顔なじみではあるし、仲も悪いわけでは無い。
だけどギルドマスターと懇意にしてるからって、グリン直接で、しかもDランク冒険者程度が指名依頼を貰っている事を、良く思って無い奴なんてのも、そりゃぁ当然いる。
大抵はやっかみ程度で終わるんだが、酒が入っちまうとつい気が大きくなって言わなくても良い事を言ってしまう奴や、偶々気が立ってたりして絡んでくる奴なんかも極稀にいる。
丁度こっちを睨付けながら大股で歩いてくる大男、大体絡んでくるのはああいった手合いの場合が多い。
「何だ何だ?随分景気が良いじゃ無いかツヴァイ。俺にも別けてくれよ、その景気の良さを」
嫌みったらしいだみ声が酒場に響くと、暖まっていた俺達の興が一気に覚める。
「ああ?何だ?やけに耳障りな雑音がすると思ったら、
始まった。
酔った勢いとは言え、影で囁かれている徒名を面と向かって本人に言うとか流石にないぞツヴァイ。
それこそラルとツヴァイは同じ獣人同士。出身も隣村とかで、元々は仲が良かったのだがツヴァイが獣人の掟を破り『力ある神パーネス』への信仰を止め、『全ての知を司る神メティス』を信仰したことに由来する。
「女の穴ばっかり追っかけて、遂には女神のケツまで追っかけるようなクソ野郎に何言われてもな」
「何だと?」
「嗚呼?」
何でこう、獣人て奴らは直ぐ喧嘩をおっぱじめたがるんだろうか?ほらみろ、もう二人の鼻と鼻がぶつかりそうな距離になっちまってる。
「待て待て、二人とも。此処は酒場だ、酒呑めよ。ほら、ツヴァイも。ラルも座れ。それとも何か?このままもっと近くまで寄って二人の熱い口吻でも皆に見せるのか?」
そう言って二人の間に俺は立つ。
「いやいやいやいや、タイムさん。確かに俺はアンタに随分世話になったさ。でもそれは駆け出しの頃。今じゃ俺は冒険者ランクCだ。アンタより上なんだよ!」
大きな身体で俺を威圧するようにがなり立てる。
「嗚呼、そうだな。だがそれがどうした?Cランクだろうが例えそれがAランクだろうが、此処は酒場だ。酒を呑むのが道理、其処を外れて憂さを発散したいんなら修練場にでも行って汗を流して来れば良い。お前の機嫌で周りを巻き込むな」
俺より一回りは大きいラルの眼前に臆する事も無く俺は一歩前へ、ゆっくりと踏み込んでいく。
「そう言うっ!!そう言うアンタのスカした所が嫌いなんだ!!!大体何で何時もツヴァイ何だ!こんな女々しい野郎に!俺は、アンタに・・・・・・俺は――――」
「ラル・・・・・・・」
そうか。そう言えば昔、ラルは良く俺に懐いていた。
もしかしたらラルはずっと俺に―――――
「ラルはタイムが好き。タイムはツヴァイが好き。汗だく男の
にょきっと生えるようにエヴァが顔を出し、その綺麗な顔を歪ませて何もかもをぶち壊した。
「お前なぁ……………」
ツヴァイがそう呟くと、どっちらけたその場はそのままお流れになった。
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