第2話 万年Dランク冒険者タイムの日常
ちゅんちゅんちゅんちゅん。
ちゅんちゅんちゅんちゅん。
「んぁ…………っ、まぶしっ」
窓から差し込む朝日と、小鳥の囀る声に目を覚ます。
冒険者の朝は割と早い。
それは朝一番に掲示板に張り出される依頼や、割の良い依頼を取り合うからなのだ。
だが俺のような職業冒険者はゆっくりだ。
何故なら余り物の依頼を消化する為に居るような存在だからだ。
「あったま痛ぇっ・・・・・・・昨日は久しぶりにシコタマ呑んじまったな」
ぼりぼりと首筋を掻きながらベッドから身を起こす。
むにゅ。
「ん?」
ベッドに手を置いたはずが、予想外の感触が手を伝ってくる。
「柔らかい・・・・・」
もみもみ。
「ンンっ」
気怠い嬌声が耳元に届く。
ああ、またやっちまた。
取り敢えず、もう一回軽くソレを優しく揉む。
あまり揉みすぎると、名残惜しくなりマイサンがオーバーロードしてホットホットになってしまう。
なんとなくジトッとした視線を感じたので、俺はそそくさと立ち上がると、桶に溜めておいた水で顔を洗い身支度を調える。
「また・・・・・・そうやって逃げるの?」
「んぁっ?」
突然の言葉に心臓が飛び出そうになった。
「逃げるって、お前・・・・・・人聞きの悪い」
「だってそうじゃない。タイムさえ良かったら養ってあげてもいいのよ」
「……………男が女に養って貰うなんてかっこ悪くて、死んだ両親に顔向け出来ねぇーよ」
「……………ボソっ(ふ~~ん、見栄を取ったか)」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ、なぁ~んにも」
「取り敢えず、ギルドに顔出して来るよ」
「そ、また今夜ね」
手の平をひらひらと振り何も答えず俺はアズの家を出る。
パタン―――――
俺等みたいな冒険者家業は約束が出来ない。
したくないわけじゃ無い、ただ出来ないんだ。
常に危険と隣り合せ、何時命を落とすか知れない仕事だ。
だからといった訳じゃないけど、俺は約束はしないんだ。
アズの事も・・・・・・・・・。
振り返り、閉じた木製の扉を見る。
「また今夜ね・・・か」
□■□■□■□■□■□■□■□■
バタン―――――
古ぼけた両開きのスィングドアをくぐる。
今日も今日とて何も変わらない。
繰り返しの日々。
閑散としたギルドの朝。
と言っても、もう一刻も前に居ていれば、依頼を取り合う冒険者達でごった返していただろう。
「ぬぁっ、今日は一段と遅い出勤だな」
「いつもと対して変わんねーよツヴァイ」
入口近くで突っ立ていたむさ苦しい髭のおっさんが声を掛けて来る。
ツンケンした言い方は毎度の事で、別に絡んできている訳じゃない。
彼、ツヴァイなりの挨拶だ。
その証拠に、にこにこ笑っている。
まぁ、イカツイ髭面のおっさんが、にこにこ笑ってても気持ちワルいだけなんだが。
「おはよ、タイム―――――ふわぁっ」
「あぁ、おはようエヴァ、寝足りて無いんじゃないか?くま出来てるぞ」
「いい、気にしない」
エヴァは綺麗にすればきっと美人に違いないんだが、なんせ無精でフケもでてりゃ昨日と同じ服着てるなんてザラ。
それが遠征中なら分るんだが、何時もこの調子だ。
本人曰く、もっと他に大事な事があるから見た目なんてものは最低限で良いらしい。
そう言っても、流石に臭いには気をつけているらしいが、言い換えれば匂わない程度の不潔って事だ。
ちなみにツヴァイは獣人の僧侶で、エヴァはハーフエルフの魔法使いだ。
二人とも大事なパーティーメンバーでもある。
ほぼソロの俺には、非常に有難い連中だ。
他にも小人族のホウニットや、俺と同じ人族で、自称魔女族のナナなんて言うメンバーもいる。
皆俺と同じでこの街ユーリアに住み着いて居る冒険者だ。
大体皆ばらばらに過ごしてるんだが、稀に待たれている時があるんだ。
そう、今日みたいに。
そういう時は大抵―――――
「―――――タイムさん」
鈴の音の様な声でメルルが俺を呼ぶ。
この時間帯、朝の遅い時間帯は人が少ない。
だけど人気の受付嬢であり、見目麗しいメルルの周辺には何時もそれなりに人が居る。
普段なら――――。
「何?えらく不機嫌そうだけど、面倒事かな?」
「よく私の声音だけで機嫌がわかるんですね、タイムさん」
「そりゃぁ我等が冒険者のアイドル、愛しいメルルの事だ。きっとこの街の冒険者なら誰でもわかるさ」
メルルの周辺にはどんよりとした近寄るなオーラが染出ている。
正直視認出来そうなレベルだ。
これで分るなと言う方が難しいだろう。
「そんな事より、有るんだろ?
「話が早くて助かります。それでは奥の部屋で」
そう言うと俺は立上り、ギルドの奥にある小部屋に向かう。
勝手知ったる何とやらで、誰に断る事も無く何時もの部屋に入っていく。
「やっぱりか」
「そう嫌そうな顔すんな」
「タイム――――ふわぁっ・・・・・・すぴーー」
部屋には先客――――ツヴァイとエヴァが既に揃っていた。
一人立ったまま寝てるが。
「やっと来たか」
心底待った、そんな顔をしてそう吐き出したのは、この街ユーリアの冒険者ギルドマスター、グリンだ。
普通にタメ口で話してるが、俺もこの街で冒険者になって25年。
グリンがまだギルド職員だった頃からの付き合いで、近頃じゃ偶に一緒に飲んだりもする仲だ。
気は使わないで済むから楽でいい、お互いに。
「急ぎなら呼びに来れば良いだろ?」
「行かしたが宿には居なかったんだ」
宿まで来たのかよ。
「ああ、そりゃ済まんかった。ちょっと野暮用でな」
「羨ましいことで」
ジトッとした眼で俺を視てくるグリン。
そんな眼で見て来んなよ。
俺からしたら家族が居て、子供も居る。
そんな暖かい家庭を持つお前の方が、よぉっぽどっ羨ましいんだからな!
「――――――それで?」
「ちょっと面倒なことになってな――――――」
まぁ予想はしていたが、この部屋に来るとグリンは大体この切り口から話を始める。
そして次に顎を軽く撫でるんだ。
俺等のような万年Dランク冒険者、そんな奴に来る指名依頼なんて大抵が後ろ暗い物だ。
『貴族のお坊ちゃんが、無謀にも冒険者家業に憧れて家を出たらしいから、現実を見せてさっさとお家にお戻り頂く』『帝国の間者が入り込んだらしい、始末をお願いしたい』『ダンジョン最奥に辿り着いた奴が死亡したらしい、回収をお願いしたい』『裏ギルドが――――――』等々。
かなり怪しい話が多い。
その殆どを、土着の冒険者である俺達が片付けるのだ。
この街ユーリアではそれが仕来りであり習わしでもある。
そして、それこそが俺達職業冒険者の生活の糧でもある。
「―――――聖女様の護衛を頼みたい」
ゆっくりと、それでいてはっきりと――――グリンが告げた。
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