冒険者の街 ユーリア
黄金ばっど
第1話 万年Dランク冒険者タイム
俺の名前はタイム。
何の変哲も無い職業冒険者だ。
職業冒険者と言うのはその街に根付き、周辺の魔物や魔獣を間引いたり街の中での困り事を解決したり、時には隣の街までの
どちらかと言うと冒険者と言うよりは街の
今日も今日とて街の北部に位置するユーリア山脈の麓で、突撃猪が群れで出たとの報告を受けて、俺がそれを調査がてら間引きに行って来た帰りだったりする。
「はい。
「ああ、それで頼む。」
「今回も肉の状態が非常に良かったので報酬に上乗せしておきました。」
冒険者カードに記載されている所持金欄にDランク依頼の基本金額である2500ゴールド、それに
これだけあれば1週間はラクに過ごせそうだ。
「何時も悪いね」
「いえいえ、タイムさんの降ろす食材は鮮度も良くって、血抜きも完璧で大変好評なんですよ。」
そう言ってにっこりと微笑むのは王都の北西に位置する街ユーリアの冒険者ギルドで一番人気の受付嬢メルルだ。
彼女とは長い付合いで俺が新人冒険者だった頃から知っている。
その頃から一番人気の受付嬢だったメルル。
金色に輝く長い髪、髪と同じ色の大きな瞳に、これまた金色の長くカールした睫毛、ぷっくりとした唇は男の情欲をそそり、透き通る様なその白い肌は雪の妖精フラウの様だと称えられている。
間違いなくこの街一番の美人だ。
彼女に褒められる為に冒険者を続ける
かく言う俺もその
彼女に褒められ上機嫌の俺は、なじみの酒場で何時もの様に何時もの酒を煽る。
空になったグラスを掲げると、店主のアズに声を掛ける。
「おーい、お替り」
カウンターの向こうで料理を造っていたアズが振り向く。
「いつもので言いい?」
「嗚呼」
俺がエールや葡萄酒を飲まないのを知っているのに、必ずアズはいつもので良いか?と聞いてくる。
その問いに短く答える。
トプトプと酒を注ぐ音がするとそれに答える様に、カランコロンと氷の転がる音が鳴る。
「はい、今日もお疲れ様。」
「有り難う」
このやけに短いやり取りで、俺は今日も無事帰ってきた事実感する。
グラスを傾け琥珀色の液体をゆっくりと流し込む。
今日一日頑張ったご褒美だ。
この街の男共は必ず一度はメルルに恋をして、叶わぬ恋と知り枕を涙で濡らすのだ。
男共は初恋を忘れる為に酒を求めた。
そして出来た酒が銘酒『恋煩い』、メルルを想い酒を飲みメルルを忘れる為に酒を煽る。
トウモロコシを原料とした『恋煩い』。
その飲み口は柔らかく、芳醇な薫りが漂う蒸留酒だ。
ロックで頂けば、口当たりの良さとは裏腹に、腹に入れば火が点いた様にカッカと熱くなる。
そんな恋煩いのアルコール濃度は69パーセント。
下戸が呑もう物ならイチコロだ。
そう、メルルと一緒なのだ。
みんな男は彼女にイチコロなのさ。
そんな馬鹿話をしながら代わり映えの無い毎日を過ごす。
それで満足を覚えていた。
俺は特別な人間でも、特段優秀な人間でも無い。
唯々、平々凡々な人間だ。
冒険者と言っても特段危険を冒すでも無く、命を掛けるほどギャンブル好きでも無い。
唯一の特技が
レア度はユニークで、非常に珍しいスキルなのだが、生活魔術の一つ『収納』がスキルとして特化した物だろうと、教会で鑑定を言い渡されて以来俺の適正は
12歳から冒険者登録をし、Aランク冒険者を目指して頑張って来た俺だったが3年溜めた金全部つぎ込んで、開花したスキルが
それ以降、俺は理想と現実のギャップに苦しんだ。
何度か他の冒険者達とパーティーを組んだ物の、何においても平均的な俺は成長していく仲間達に何度も置いて行かれることになった。
最後に組んだパーティーは4人パーティーで最年長の俺が一応リーダー。
剣士志望のユリウスと魔法使い見習いのアース、僧侶見習いのチップ、10歳も年の離れた少年少女達との冒険は楽しかった。
この頃になると俺は冒険者ギルドから若くて有望な冒険者の指導役として飼われている様な状態だった。
そんな俺にとって、有望な冒険者三人組とのパーティはある意味最後のカケだった。
コイツらと上手くやって俺ももっと上へって・・・・・・・・なんてね。
この時は俺自身気付いてなかったが、他力本願な時点で俺は冒険者失格だったんだ。
冒険者ってのは元来自分の腕っ節で全てを手に入れようって連中がなるもんなんだ。
そんな事すら俺は忘れちまってたんだ。
思えばユリウスは無鉄砲な少年だった。
魔物とみるや一人で突っ走って行き、討伐しようとする。
おっちょこちょいのアースは覚え立ての初級魔法でユリウスの尻を燃やしたこともあったな。
大人しい性格だったチップは今や聖女扱いだ。
三人とも飛び抜けて優秀だった。
薬草採取から野営のノウハウ、ゴブリン討伐に魔獣の巣の殲滅方法、盗賊の対処方と俺は持てうる知識や技術全てをユリウス達に教え込んだ。
そしてアイツらは、俺と二年一緒に冒険して溜めた金で教会に祈りに行ったんだ。
15歳を過ぎると人は教会でスキルを授けて貰える。
一生に一度だけの大博打。
大金をベットし自分の秘めたる
大体の奴らは此処で挫折を覚え現実を知る。
だけどユリウス達は……………………揃いも揃って博奕に勝利したんだ。
彼らの授かったスキルの内容を聞いた時に俺はAランク冒険者を諦めた。
きっとAランク冒険者ってのは、一流と呼ばれる冒険者ってのは、こう言う奴らが成るもんだと。
ユリウスはスキル『
彼らの開花したスキルもユニークスキルだった。
何故?
千人に一人開花したら良いと言われるユニークスキル。
それが三人とも大当たりのユニークスキル。
それも自らの希望に添うスキルだ。
何故?
俺もユニークスキル持ち……………なのに!
俺のスキルは
それも誰でも使える生活魔法の上位版。
せいぜい十人分の収納と同じ程度。
確かに有用で凄いかも知れない。
でも俺は一流の冒険者に成りたかった。
Aランク冒険者になりたかった。
お伽噺に出てくる様な、英雄に成りたかったんだ。
ユリウス達は大当たりのユニークスキル、一方俺は同じユニークスキルでも大外れスキル。
俺は思ってしまった。
何故なんだ?
何故なんだと・・・・・・・・。
この――――――差は一体何故なんだとっ!!!
俺は俺なりに一生懸命やって来た。
知っていたさ、自分に才能が無いことぐらい。
薄々わかっていた…………。
それでも諦めずにやっていれば想像を絶するお宝を手に入れたりするかも知れない、もしかしたら
そんな……………そんな有りもしない事を夢見ながら、俺は冒険者を続けていたんだ。
きっと創造神であるコピルス様が最後通告をくれたのだ。
「諦めろ」「やっても無駄だ」「才能無いんだよ」
そう「無駄」だって。
それを教えるためにコイツら三人を俺の所に遣わせたんだろう。
そんな風に思ってしまうともう無理だった。
結果―――――俺は今日も一人。
でもそれで良いのさ。
才能も何も無い俺にはそれがよく似合ってる。
「アズ、ピンの煙草くれ」
「どうしたの?今日は羽振り良いじゃ無い」
「シケモクばっかりじゃ身体が言う事利いてくれないんだよ。こちとらもう
「あらあらタイムが引退したらこの街も大変ね。――――――はい煙草。マボールの葉っぱよ」
「何が大変だ……………思っても無い事言うなよ、ったく、はやく火………くれよ」
「はいはい」
アズの細い指に小さな灯が灯る。
そこに煙草をそっと寄せる。
ジジジ――――。
胸一杯に紫煙を吸い込むとゆっくりと煙を吐き出す。
狭い店内にふわりと煙が舞う。
橙色の店の灯が、光で煙を梳かしている。
「うめぇ」
「ふふっ、それは奢っといてあげる」
「お、気前が良いな」
「その代わり!―――――明日も来なさいよ」
「へいへい」
何の変哲も無い毎日。
上出来じゃ無いか――――。
さぁ、今日も夜の帳が落ちるまで、ゆっくりグラスを傾けるとするか。
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