第18話 案

 「まず一番最初に掲げるのは、女性の地位向上を実現すること。

 日本のジェンダーは先進国では最低レベルですが、これを解決すれば大概の問題は一気に解決します。

 少子化はもちろん、労働力不足、生産性向上、消費のアップで景気向上。

 大学入試で男女同数の合格者にしたところ同じ点数でも女性が不合格になることが多いそうです。

 つまり女性のほうが学力が高いということになりますね。

 研究職における男女の待遇や給与の格差をなくすことによって、日本の科学力は復活することは確実です。もちろん結婚出産育児のサポートを充実させるのは全女性に対してのことです。

 女性ばかり優遇する政策のように思われて女尊男卑と言う男もいるでしょうが。

 これまでの歴史の結果うまくいかないことははっきりしましたから、この機会に逆転させます。

 だいたい女性しか子供を産めないのですから優遇するのは当然な事と思いませんか。

 例えは悪いですが、酪農で生まれた雄の子牛はすぐ肉にまわされます。人間の男などは使い捨てでいいのです。

 そして組織のトップは女性であるべきだと個人的に思い続けていました。

 男は女性の僕として仕えるほうがうまくいきます。

 経験上女性のほうが決断力が優れていますし、行動力は男性のほうが優れています。適材適所ですよ。

 女性の欠点もありますね、相手の人間性を瞬時に見抜くことができない。

 男はけっこう本能的にできますから兵隊に向いているのはそのためですね。

 男は決断に自分のプライドや周囲の忖度を材料にしますが、女性は極めて現実的なことで決められます。

 家庭内でも同じでしょう?母親は絶対的ですし、小学生のころ女性のほうが強く優れていませんでしたか。男は体が大きくなると勘違いして女性を下に見がちになりますね。

 これまでは男が稼いで兵隊になることで国を保ってきましたが、それは狭いなわばりの世界だったから成立してきました。

 でもネットで瞬時に世界中の情報と動きが手元に得られ、自分から情報も発信できる。しかも匿名で。

 そうなると性差にこだわっていると足かせになって新しい動きや価値観に対応できなくなります。

 都知事が女性になったことで僕はけっこう期待したんですが、

 男性社会で揉まれて頭角してくると男の手法になっていましたね。

 つまり女性の良い面が出なく悪いところばかり目立ってしまったことが残念でした。

 あ、ついつい愚痴が出てしまいましたがこの際ですからいいでしょう」

 

 都知事には目を合わせないようにしていたが、向こうは強い視線を向けていた。


 「妊娠出産育児の期間は有給プラス給付金を支払いますが、企業によっては不可能な場合もあるでしょう。ただでさえキチキチの人件費でやっているのですから。

 ですので全額国で負担します。

 財源は?という話になりますが、実は今回の侵攻の条件に各国から財政支援が確約されています。

 国を金で売ったということになりますか。

 ですが養う国民が半分になったうえに増収になるわけですから断るのは馬鹿です。

 東京の土地は生活はできませんが、アメリカが原発を何基もつくり近隣にその電気を大量に使う工場地帯をつくると言っています。

 そこでの労働力は日本人になりますから、いわゆる出稼ぎ外貨が入ります。

 北海道にはロシアから天然ガスをはじめとする資源が集まり生産力が上がり、その恩恵が日本にも与えることになるでしょう。

 もっと大きいのは防衛費を大幅に削減できることです。

 中国とアメリカは対立関係を日本では解消されたので、自衛隊の存在が無くなりました。

 もともと警察予備隊創設理由は朝鮮戦争で残った武器の売却のために作った軍事組織ですから。

 ただし災害派遣など過酷な任務を担う組織は必要ですので、形を変えて存続させるつもりです。

 あとあくまでも予測ですが、東京の住人が散らばった先々で能力を発揮してくれて新しい産業を生んでくれることも期待しています。

 いかがでしょうか。異議のある方は挙手してから発言をお願いします」


 集まった知事の面々はほとんどが高齢男性ばかり。

 男が社会を維持することが常識として生きてきた。

 それでうまくいっていたと思ってきた。

 しかしそれでは解決できないことばかりな社会になってしまった。

 それに気づいていても変えられないのが男という生き物。

 自分の過ちを認めることはできない。

 ジェンダーなどは宗教のようなものだから改宗でもしないかぎり不可能。

 改宗は無理でも異教徒を認めるか、残り少ない人生なので騒がず沈黙をするか。

 この場にいる男たちは全員静かに座っていた。


 「異議なしとします。それでは次の案の説明に入ります」




 

 

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