第16話 大阪

 日本各地が占領されていた頃、天皇陛下より早く東京を脱出してきた男が大阪府知事の執務机に座り、目の前に立っている若い男に文句を言っていた。


 「なんで自衛隊は防衛行動をしなかったんだ。アメリカ軍だってそうだ、安保条約はどうなっているんだ」


 「いえ総理、まず最初に北からのミサイルが発射されアメリカ軍が迎撃しました、しかし北海道は千歳基地からスクランブルと恵庭の戦車隊が向かいましたが、ハバロフスクの艦隊とサハリンと北方領土から同時に上陸されてしまい、道東の師団は対峙する前に北部方面は降伏しました。

 三沢のアメリカ軍は横田基地に集結していましたので対応できず、陸奥湾の海自も間に合わず、沖縄から東京に向かっていたアメリカ海兵隊の隙をつかれ、九州や西日本の自衛隊は海自の船団とともに動員され関東に向かっていました。


 そもそも自衛隊は慢性的に隊員不足になっていまして、大学校はまだましですが、士クラスは毎年二千人は不足しています。

 日本の危機に最大限の派遣をするにあたって、どうしても残せる人員はすくなくなります」


 「領海侵犯された時点で警戒行動をするのではないのか。なぜ出遅れるんだ


 「東京への救援活動として事前に通告がありました。ただ東京の前に北海道に立ち寄ったということで油断していましたと報告がきました」


 「どさくさに紛れて中国が通告も無しに尖閣諸島海域を実効支配し、韓国と北にいたっては竹島を占領してしまった。台湾はあっさりと降伏をするし、アメリカ軍はそこでも役に立たず反撃すらしていない」


 「どうもアメリカ軍は中国との停戦協定にすぐ動いていたようです。


 その内容には九州を日本から離脱させアメリカと中国、台湾が共同で支配をし、日本からの物流と中国台湾の輸出入を管理する特別な地域としていくそうです。

 そこで取引されるものは関税がかからず、そのまま自国と相手国へと。

 北海道ではロシアが同じようなことを中国とアメリカとで行うという話です。

 私としては日本として悪い話でないと思いますが。壊滅した首都と中京太平洋地域によって日本の仕組みが全く機能しなくなりましたから」


 「何を言っているんだ。国土を半分以上取られたんだぞ、それが悪い話でないとは。

 お前は日本人として悔しくないのか」


 「悔しいもなにも、どうしようもできないじゃないですか。でしたらどうやって首都東京を復興させる計画なのかお聞かせください」


 「・・それはこれから与党内で話し合い内閣で決定してから・・いろいろ案はある」


 「そうですか。それでは与党の皆さんは今どこにおられるのでしょうか。少なくとも私は総理以外はお見掛けしていませんし、連絡を受けてもいませんが」


 「皆は地元に避難していたり、どこか安全なところにいるはずだ」


 「そうですか。秋には皆さん議員資格を失いますが選挙はどうするのでしょうか。関東は無理ですね。確か総理もそうでなかったでしょうか」


 「うるさい。私はこの機に引退をすることに決めている。田舎の秋田に帰るんだ」


 「ということはすでに他人事としているわけですね。でしたらいいじゃないですか。日本のことなど。

 この際だから言いますが、これから総理のような既存の政治家は役には立ちませんね。

 文字通り小さな政府になったおかげで風通しが良くごまかしがきかなくなりましたから。

 私たちは真に国民の正義のために新しい政治家を生み出します。

 ということでこれまで大変お世話になりました。

 特にただの都の職員だった僕を北海道知事にまでさせていただきまして。

 正直に話しますと今回のロシア侵攻は前もってアメリカ軍とロシア軍から連絡が来ていました。

 ですからスムーズに事が運んだんですよ。

 どこの国の誰が発案したかは知りませんが、話を聞けば壊滅した日本を立て直すいい機会だと思ったんです。

 安心してください。僕ら若いものが日本を良くしていきますから。

 それでは失礼します」


 そう言って現北海道知事は部屋を出て行った。これから関東と九州沖縄の知事と会談が予定されている京都に足早に向かって行った。






 






 

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