第12話
眞己は追ってこなかった。
そのことがなぜか哀しくて、胸の奥が痛んだ。
自分がそんなことを思う資格なんて、ないはずなのに。
リンは涙を拭いながら鏡を見た。
そこには冷たい美貌がこちらを見つめ返していた。
「嫌なヤツ……大っ嫌い──っ」
リンは映った自分を罵った。だが、抑えきれなかったのだ。
デートだと浮かれるアイツを見ていると心にしこりのようなものができた。それがなにを意味するのかもわからずに、もやもやとするものを抱えながら眞己を見送った。そして彼の用意した朝食など食べる気力もわかず、なんとなくリンも外出許可を申請し、外に出た。足は自然と眞己とかれんの待ち合わせ場所へと向かった。
そこでかれんと会った。
少し話をすると、胸の奥からドロドロしたものが噴きだしてきた。それを冷然とした笑みで隠しながら、彼女を遊びに誘った。
眞己との約束なんて関係ない。自分は人心操作──人を意のままに操る法を何百年も突き詰めてきた家系の長だ。かれんに眞己の約束を破らせることなんて造作もない。
自分でもなぜこんなことそしているのかわからず、それでも心の底にある暗い感情に突き動かされて、それを笑顔で隠しながらかれんと遊んだ。
映画をみて、昼食を食べた後ウインドウショッピングと洒落込んだ──すべて眞己の計画通りに。
そして、もうすぐ日が沈み、そろそろ帰ろうと思いたった時──
いるはずもないと思いながら、待ち合わせの場所へと行ってみた。
なのに──眞己はいた。あらから何時間も経つのに。
だから見せつけてやった。
かれんは──キミの好きな人は、キミとの約束を破ってボクと遊んでいたんだよ。
そして──
寮に帰ると、眞己に詰め寄られた。
なぜ、と言われた。そんなことボク自身が訊きたい。なぜあんなことをしたのか。なぜこんなにも苦しいのか。なぜ、こんなにもキミを独占していたいのか。この狂おしいほどの感情をなんと言うのか。
眞己がかれんを好きという声など聞きたくない。ボクを友達という言葉など聞きたくもない。ボク自身がなにを望んでいるのかわからない。
ただ衝動的に身体が動いてしまう。口唇を重ねる。初めてのキス。
それをアイツに拒絶されたのが、ひどく哀しかった。そんな汚いものに触れたかのように拭われるのなんか見たくなかった。そんなにボクが嫌いなの──?
胸の奥が痛んだ。視界が歪む。なぜこんなにも心が揺れるの? ボクを拒絶するアイツなんて嫌いだった。手が勝手に動いた。でもアイツを傷つける自分はもっと嫌い。大っ嫌い!
眞己──ボクを初めて女だと知った男の人。アイツのことを想うと涙がとまらなかった。
これはなに?
なぜこんなにも──
心の焼ける音がするの?
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