国会にて

国際連盟から帰ってきた我らが神、愛しき国家元首の落胆たるや!

純粋な善意が踏みにじられ、我らを偽物扱いする”国際社会”への怒りを我々アステカ議員達は共有している。そう、我らは怒るべきなのだ。


「私が愛する議員、私の協力者のみなさん。ああ、ああ、どうか私に正しい道を教えてください。私の誠意は意味をなさなかった。私の力は何に使われるべきなのでしょうか」


なんたる無情な響きか! 表は豪奢でも、それは文字通りの意味で”外向き”の姿勢に過ぎない。我らが神ククルカンはおそるべき力と知恵を備えた、しかし弱々しい少女なのだ。


「神よ。お教えください。あなたをはねのけた国々はどれほどの被害を出しているのです」

長老が静かに、いたわるような声色で話しかける。哀れな神に向けて。


「彼らは毎日のようにおびただしい数の犠牲者を出しています。毎夜100万の人が亡くなり、その遺族は悲嘆にくれているのです」


「続けてお聞かせください。不幸はそれで終わりなのでしょうか。アトランティス病はただ死者だけを生むのでしょうか」


「いいえ、決して!」


美しい緑の神が揺れる。

神は議場に立ち、泣くように語りかける。


「世界に広まった不幸はもはや私の能力を持ってしても把握しきれません。友人の、家族の死に立ち会った人々。仕事を失った人々。自分を表現する劇場、躍動するスポーツ、話し合う友。すべて、すべてが世界から失われようとしているんです!」


「ならば、我らのすべきことは一つであるように思います」

長老は神にひざまずき、しかし厳かな声で告げる。


「法を超越すべき時がきたということです。彼らはもちろん、国際法なるものを定め、我らの干渉を防ごうとしている。”内政不干渉”、この危機においてこれほどむなしい言葉も存在しません。

不幸に対して立ち上がるべきです。神よ、あなたにはその力がある」


長老の言葉を受けて議員が続々と立ち上がる。もはや採決を待つ必要さえない。


「「「「我らは我らの神に祈る。ただ、神が正義を成すことを」」」」


国会が文字通り一つとなり、支えを求める神に答えを出した。

我らの意思は常に神と共にある。


「ええ、ええ、ありがとうございます。

あなたは、あなたがたはいつも私に勇気をくれる」


神は涙をふいて我らに応える。


「世界に幸福を取り戻しましょう。不正に、不正義に、格差に、そして、それを良しとする無関心という悪に、私は戦いを挑む!」


道は決まり、いまや行動すべき時だ。世界の幸福を取り戻すために。

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