24 馬には乗れますか?

崖の上から確認した一同は、当たり前のようにそこから飛び降りて行く。


本当に躊躇なくシーリアから飛び降りたので焦った。下に綺麗に着地したシーリアは、上を見上げて興奮した笑みを浮かべていた。


「やっぱり楽しいわっ」

「……リア様……」


とっても心臓に悪い。だが、トラウマではなく、楽しいのならいいかと、注意するのはやめておいた。


ギルセリュートもいつもの無表情のまま飛び降り、それに聡が続く。


ここで呆れていても仕方がないので、フレアリールも飛び降りた。


「あら、フレアちゃんも平気なのね」

「おいおい、出来るとは思ったが、妙に慣れてんじゃねえか」


走り出しながらシーリアと聡に言われてちょっと気まずげに答えた。


「……飛ぶの好きなんで……」

「ああ、嬢ちゃんも飛び降り遊びしてたか」

「いえ、まあ……ちょっとやんちゃなのがいたんですよ……」


適当に答えを濁しながら駆けた。


因みに、乗ってきた馬車はどこかに隠すにしても、置いておくことに不安を覚えたらしい聡が、普現魔術の闇属性。影収納というもので亜空間に保管中だ。


召喚獣のように、念じれば影から出し入れ出来る。なので心置きなく身軽に動けるのだ。


とはいえ、走って馬車へ向かうというのはどうなのだろう。向かって来てはいるが、まだまだ距離はある。


ならば馬車をとも思ったのだが、走れる幅はここにはない。そこで聡へ提案した。


「聡さん。シャドウホースを」

「あ、そうだな。けど、ギルとリアはどうするよ」


フレアリールにはリオがいる。心配なのは二人だ。しかし、フレアリールも、ここでリオを本来の姿に戻すのは反対だ。それも考えながら答える。


「私の召喚獣を出します。リア様、馬には乗れますか?」

「乗れるわよ? 昔は出来なかったけど、早駆けも出来るわ」

「でしたら……フィルビー」

「っ、まあ!」


影から出てきて並走したのは白銀のユニコーン。


「聖魔獣じゃない!」

「マジかっ、俺でも初めて見るぞ……」

「これが……」


この世界で、白銀色の魔獣を『聖魔獣』と呼ぶ。魔獣より遥かに賢く、成獣になれば強い。


聖獣のなり損ないだと言われており、魔獣達も人と同じように彼らを襲う。自分たちと相入れない存在であると感じるのだ。


生まれた時は親と同じ色なのだが、自衛をあらかた覚え、幼齢期を過ぎると色が突然変わるのだという。本来の姿に戻るのだ。


「この子は鞍も付いてますから。フィルビー、リア様よ。乗せてちょうだい」

《ピュイ》

「可愛い! 私はリアよ。よろしくね」

《ピュ~イ》


いいよーというニュアンスだ。リアが立ち止まるのを確認すると、続けて喚ぶ。


「パルファ、スイリー、出てきて」

《ウォン!》

《ブルル!》


次に出てきたのは二体。パルファはフェンリル。スイリーはシャドウホースだ。


二体とも白銀色。聖魔獣だった。


「おいおい! こんなに聖魔獣ばっかとかどうなってんだ!?」

「どうなってるんでしょうね? 昔から散歩の時とかによく拾うんですよね」

「シェンカで? 生息数の比率、おかしいだろ!」

「そうですか?」


そんなことを言われても、見つけてしまったのだから仕方がない。


彼らも庇護してもらえることが直感で分かるのだろう。森で遊んでいると、いつの間にか傍にいたりした。


本来彼らは警戒心が強く、森の奥深くにひっそりと生きている。目撃者が少ないのは人が近付くと隠れてしまうからだ。


同族に追われ、周りは敵ばかり。当然、人でも魔獣でも接触することを避ける。


だが、どうしてか昔からフレアリールにはすぐに懐いてしまうのだ。


「それより、聡さんもあの子を喚んでください。ギル、シャドウホースのスイリーです。鞍はありませんが、乗れますか?」

「問題ない。すまないが乗せてくれ」

《ブルフ!》


よかろうと言っているようだ。


シャドウホースは種族柄、プライドが高い。特にスイリーは乗せる相手には厳しい。だが、ギルの走り方、身のこなし方を見て自分に乗せても良い相手と認めたようだ。


「パルファ!」

《ウォンっ、ウォンっ》


パルファはまだ少し幼い。のってー、あそぼーという感じだ。


聡も召喚したシャドウホースに乗っており、四人とも一気に速度が上がった。


先頭はシャドウホースに乗ったギルと聡。その次にユニコーンに乗ったシーリアが続き、最後尾をフェンリルに乗ったフレアリールが追いかける。


「リオ、振り落とされないでね」

《大丈夫っ》


リオは子猫姿のままフレアリールの左肩に掴まっていた。


「俺とギルで魔獣を相手する。嬢ちゃんとリアは馬車を頼むぞ」

「任せて」

「分かりました。スイリー、ギルをお願いね」

《ブルル!》


任せろという頼もしい意思が伝わってきたので、心配ないだろう。ここへ来るまでにギルセリュートの実力も把握している。


数はいるとはいえ、魔獣に遅れは取らないと確信できた。


「よしっ、行くぞっ」


聡の合図で、ギルセリュートと共に二人は馬車を追い越し、魔獣へと向かって行った。


馬車は二台。


護衛として見知った者達が馬で並走しながら戦っていたが、魔獣の数はそれほど減っていなかった。


そして、彼らがフレアリールに気付いた。


「なっ、フレア様……っ!? い、生きてっ、生きていらしたのですかっ!」

「久しぶりですね。リガル殿」


彼らは、フレアリールを魔王であったリオと共に葬った魔術師や神官達だったのだ。

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