やさいたちの夜

 ある静かな夜の日のことです。コウタくんの家のキッチンの電気が消えてしばらくすると、野菜室のなかからモゾモゾと音が聞こえてきました。

 にんじんさんがピョコンと起き上がり、タマネギさんはゴロンと転がります。そこかしこから、「おはよう」という声が聞こえてきました。野菜たちの朝が始まったようです。

 でも、野菜室のすみっこにいるなすくんだけがなかなか起きてきません。

「おーい、なすくん起きようよ。」

 にんじんさんが声をかけても、なすくんはヘタを振るばかり。コウタくんが自分を避けて食べるので、いじけてしまっていたのです。

「はぁ。君たちはいいな。仲良しで、コウタくんにも好かれてる」

 にんじんさんとタマネギさんは、相性がよくてとても仲良しでした。けれどなすくんはいつもひとりぼっち。コウタくんに好かれる野菜たちをうらやましく思っていました。そこで、なすくんはカボチャおじいさんのところに行きます。カボチャおじいさんは野菜室の主で、力になってくれると思いました。

「ぼく、コウタくんに好かれてないみたい。きっと見かけがよくないからかな。」

「なんでえ! おまいさんはオレに比べたら、肌もつるっつるで魅力だらけじゃねえか。見かけなんてオレはボコボコよ。だから友達もできやしねえ。」

 カボチャおじいさんは怒っていました。なすくんは慌てて逃げ帰ります。気を取り直して、今度はオクラさんに会いに行きました。オクラさんはグループだし、頼りになると思ったからです。

「オクラさん、聞いて。ぼく、コウタくんに好かれてないみたい。きっと地味で友達がいないからだ。どうすれば好かれるかな。」

 すると、オクラさんは座り込んでしまいました。

「わたしなんてへなへなになるまで忘れられちゃうことだってあるのよ。覚えていてもらえるだけマシだと思うべきだわ。」

 そう言うと、オクラさんは泣きじゃくります。あまりに大きな声だったので、パプリカちゃんが走ってきて、ズッキーニやかぼちゃおじいさんも遠くからのそのそやってきました。集まった野菜はどれもコウタくんが苦手にしている野菜たちでした。

 なすくんは思います。

(ぼくより悲しんでいる子はたくさんいるんだ。なんとかしなきゃ。)

「どこに行くの」

 なすくんは意を決し、野菜室から出ます。冷蔵庫をよじ登り、上の扉を開けます。真っ暗で怖かったけれど、悩みを解決するために外の世界へと出て行く必要がありました。

「新しい子だね。ようこそ。」

 卵さんが言いました。お肉は高い天井に届くくらいにジャンプしていて、調味料たちも蓋をパタパタさせてなすくんを歓迎します。

 なすくんは驚きました。そこには見たこともない世界が広がっていたのです。

 なすくんは悩みを相談しました。今や悩みは自分だけのものではなくて、野菜たちみんなの悩みでした。

「そんなことなら、お安いご用さ。」

 しかし、卵さんが冷蔵庫中の友達を集めても解決はできませんでした。

「ごめんよ。なすくん」

 卵さんは悲しく言いました。しかし、なすくんは悲しくありませんでした。みんなが仲良く話す姿を見て、野菜たちを助ける方法を思いついていたのです。

 野菜室に帰ったなすくんを、みんなは不安げに見ています。

「本当に大丈夫なの。」

「うん。まあ見ててよ。」

 なすくんは得意げに答えました。


 翌日の夜のことです。

「コウタ、ごはんよー。」

 お母さんがコウタくんに呼びかけました。

「あ、カレーだ! でも、いつもの具じゃないね。」

「今日は夏野菜のカレーよ。なぜかお野菜が同じ場所にあってね。コウタ、動かした?」

「ううん」

「変ね。ひょっとしてお野菜が勝手に動いたのかしら?」

 お母さんが不思議そうに言うと、なすくんはギクリとしました。なすくんのアイデアはバラバラで暮らしていたみんなが一緒に集まることでした。これなら仲良くできるし、ひとまとまりで料理を作ってもらえるかもしれない。考えは大成功でした。

「そんなことあるわけないわね。冷めないうちにどうぞ」

「うん。いっただきまーす」

 コウタくんの楽しそうな声はいつまでも続いていました。

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