『猫の』

 猫の恩返し、けれど誰も覚えていません。猫に親切にしたってそんなに長いこと覚えているものでもないでしょう。ましてや猫派の多いここでは猫にはいつだって親切です。

 彼は猫でした。就業時間だけでは飽き足らず、その後も猫の姿で忍び込んで仕事をしていました。最初はただ忍び込んだままで仕事をしていましたが、服がないので誰かに見られるとまずいことに気付き、服を持ち込んだり持ち出したりしていました。

 最初に見つかった日が最初に服を持ち込んだ日でした。服を持ち込んだり持ち出したりが間に合わないときに見つかっていました。

 もう十分恩を返しただろうと思ったので最後に挨拶をしてお別れしました。まあ飽きてしまったのかもしれません。なんせ彼は猫なのですから。

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