おそろい

インドカレー味のドラえもん

おそろい

 私の妹は美人だ。

 自分のことはよくわからないが、私たち姉妹はよく似ていると言われるので、きっと私もそうなのだろう。


 けれど、私はそう言われるのが好きで無かった。


 だって私と妹が似ているのなら、両親が私より妹を可愛がるのはそれ以外の、目に見えない理由のせいになってしまう。


 今更違う自分を演じるなんて器用な事私には出来やしない。

 だから、私から二人の愛を奪ったあの子のことが、私は嫌いだった。


 構って欲しくて駄々を捏ねると、お姉ちゃんなんだからしっかりしなさいと父は言う。

 だから期待に応えようと、しっかりしようと頑張ると、あなたはあの子と違って手がかからなくて良いわと母が言う。


 そんな私の気持ちも知らないで、ただ無邪気に私の後ろをついてくる妹の事が、私は嫌いだった。


 その日、いつも通り付き纏う妹とわざとはぐれ、私は一人でビルの外に出る。

 置いて帰る勇気は無く、しばらくしたら戻る軽いいたずらのつもりだった。


 けれど私が外を散歩している間にそのビルで火災が起き、妹は巻き込まれて顔に火傷を負った。


 白く快活だったあの子はもう居ない。それから妹は部屋に引きこもるようになり、部屋の扉はあの日の炎のように私たちを拒む。


 そんな妹の様子に最初は気を揉んでいた両親も次第に構うのを止め、その分私と過ごす時間が増え……図らずしも手に入ったものは私を満たしてくれず。


 今の妹にとって、人前に顔を晒すという行為は、あの炎に再び焼かれるのと同じ事なのだろう。


 一人になった私は、以前よりあの子の事を考えるようになった。


 あの子が産まれてからそれまでと、それからの今。

 リビングのテーブルと、街を歩く私の横にぽっかりと空いた一人分のスペース。


 揺れる陽炎に浮かぶ、あの子との思い出。


 ……私たち姉妹はよく似ていると言われ、その度に妹は嬉しそうに笑っていた。

 あの子にとって、私と一緒というのは嬉しい事なのだろう。


 夜、部屋の前に母が食事を置く。

 しばらく経って扉が開き、あの子は素早くそれを取る。


 鍵が閉められる前、私はドアノブに手を伸ばした。


 私たちはしばらくぶりに顔を合わせ、驚いた顔の妹に私は微笑む。


 私に無いものを持っている妹の事を、私は嫌いになりたかった。

 けれど、産まれてからずっと一緒に居た妹の事を、嫌いになんてなれるわけなかったのだ。


「いいのよ、だってあなたと同じなんだもの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おそろい インドカレー味のドラえもん @katsuki3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ