第2話

朝に金田と話してから昼休みになるまで一度も話していない。(というか話題もない)

金田はというと、たくさんの男女に囲まれて質問責めをうけていたり、3時間目のサッカーの授業では経験者ほどではないにせよかなりのテクニックで他を圧倒したりと、それなりに話題があるらしく今までずっと飽きることなく話をしていた。彼も彼で話すのが好きなのか、嫌な顔を一切せず、むしろ笑顔で器用に一人一人の質問に答えている。

そんな彼をじっと見ていると一瞬ではあるが目が合ってしまった。僕は敢えて目を逸らさずに後ろを見ているんですよというアピール(言い訳)を誰かにしていると、「ごめん、通るね」と言いながら金田は周りの人をかき分けてこちらに歩いてくる。

「凛くん。よかったら一緒にご飯食べない?」

急な誘いと呼び捨てに戸惑いつつ、恥は欠かせまいと

「うん、僕なんかでよければ。」

そんな当たり障りのないことを言って互いに机をくっつけてお弁当を広げた。

その際にお互いのお弁当のはなしになったのだけど、金田のお弁当は朝早くに起きて自分で作っているのだとか。バランスの良い色でとても健康的な弁当だ。

これがイケメンの秘訣か

「凛くんのお弁当はお母さんが作っているのかい。それとも自分でつくっているの?」

僕のお弁当はどちらかと茶色が多くて、野菜は少量だ。金田はもう少し野菜を食べないと体に悪いよ。と言いながら、トマトやらブロッコリーやらを恵んでくれる。

「僕のは姉が作ってくれているんだ、姉と僕の二人分。僕は料理ができないからね、できるのは簡単チャーハンくらいでたまご焼きですらうまく巻くことができないんだ。」

金田は笑いながら言った

「お姉さんに作ってもらっているのか、さぞかし大変だろう。感謝しなきゃね。」

今日くらい感謝の言葉を伝えても良いかもな、なんて思っていたら金田は「ところで」と続ける。

「バイトとかはしてるのかい?」

バイト?そういえば何度か始めたいとは思っていたけど結局始めなかったな。特別ほしい物もないし、あったとしてもお小遣いで買えていた。

「バイトはしてないよ。でももうすぐ姉の誕生日だし短期のバイトでも探そうかな」

そういうと金田は先程よりもにこやかに言った

「じゃあ俺の働いている場所でバイトしないかい?仕事内容はリーダーの補佐とか依頼を受けてそれを解決しに行ったりとか。給料も良いしね」

依頼?探偵事務所か何かなの?と聞き返すと

「ああ、そうだよ。それなりに大きい仕事も来たりするからかなりのやりがいはあると思う。まあ聞くよりも見たほうが良いよね。それじゃあ今日凛くんの家に行くから連絡先に住所送ってもらえるかな?あ、その前に連絡先交換しなきゃね」

あまりにも自然な連絡先の聞き出し方に感心している反面、どうにもおかしいと思うことがある。


僕行くって行ったけ?


逆らうことのできない波に落とされた僕はただ流れに任せて仕方なく行くことに決めた。



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