第26話

あれ?俺が家に引き籠もってからどれほどの時間が経ったのだろう。なんかもう身体の感覚がおかしくなってしまっている。俺は時々日本の頃の夢を見た。今よりも日本にいたときのほうが幸せだった………今はもうヒロインたちに心がかき乱されて滅茶苦茶になってしまっている。だけど俺はもうヒロインたちには会わない。そうしないと俺はどうかなってしまうから……… あぁ、どのくらい時間が経ったのだろう? もうなんにも聴こえない。今が何曜日なのか、何月なのか、ゲーム時間帯で言うところどの時期なのかすらも分からない。だけど分かっていてる事がある。夏海が学校を休んでまで俺の部屋に毎日来ているということを…………  

俺は悲しかった。自分の事について思っているのでは無い。妹である夏海にこんなことまでさせてしまった自分が悲しく悔しいのだ。俺は本当の多田平達平じゃない。違う世界から魂として入ってきた俺だ。夏海が俺にしてくれてる事も本当は達平が受ける予定だったのだ。それを俺が転生してしまったから………俺が葛藤していた時こんな声が聞こえた。「達平! 入るぞ!!」その声は忘れもしない、3人目の攻略対象の荒海涼子の声だった。………


荒海涼子先生はそのまま俺の気持ちを考えずに俺の部屋へと来た。俺の前へと来た先生は俺に向かってこう言った。「達平、学校に来ようぜ! もし行きたくないのなら……私がお前を婿にとってやる!! 」そんなふうに赤く頬を膨らませながら言う先生に俺は笑ってしまった。あぁこんなに笑ったのはいつ以来だろう?俺はヒロイン達に会わないように学校へと来なくなってから「笑う」という事をしなくなった。ふざけとかでは無く本当に笑うことが出来なくなったのだ。心が壊れている様に俺自身も壊れていた。だから俺が笑った時とても気持ち良かった。先生のお陰で俺は少し感情というものを取り戻せた。すると先生はこういった。「 お前みたいな奴をお前の他に一人知っている。そいつは私のことを素直に先生と呼んだ。しかもそいつはゲームに熱中しててな? なんか攻略したらちゃんとやるっていうもんだ。」その話を聞いて俺は段々と理解を深めていく。段々と真実に近付いているような、あぁ多分そうなのだろう。俺は最後の確認で先生に聞いた。

「その生徒の名前は?」 「あぁ唯山蒼だよ」 その言葉で俺の記憶は開放した。俺の日本に住んでいた頃の名前は唯山蒼。そして俺の事を知っている先生と言ったら麻沙美先生だ。俺が退屈でつまらないと思っていた学校生活の唯一の癒やしだった。くだらない話を先生にして怒られる。けどそれも幸せだった。そう考えると目頭がジーンと熱くなる。俺は荒海先生もとい麻沙美先生に声をかけた。「ありがとう、俺を勇気づけてくれて。本当にありがとうな! 麻沙美先生!!」そう言ったあと先生は驚いていた。そしてその直後先生は俺に向かって声を発した。「私はあなたの事が好きだよ!!!」

その声の大部分が周りの雑音で掻き消されたがなんか大切なことを言っていたのは理解できた。………… 


先生が俺を勇気付けてくれたおかげで俺は今立つことができている。本当に荒海涼子先生には感謝だ。俺の蒼としての記憶を思い出させてくれた。蒼は狙った獲物は逃さないはずだ。少し無視された? 少しきつい言葉を投げかけられた? そんな事でおれがあきらめるとおもうか!! 俺は明日勝負に出る。明日二人のヒロインに俺の気持ちを伝える。自爆も十分承知だ。それでも蒼は戦う。俺は明日に向けて素早く眠った。………


夢を見ていた。昔の夢。

「くっそ~ 未来が全く攻略出来ないよ~」


「まぁ当たり前だよ!今回の攻略はテストイベントが脅威なんだから………」


「まぁ、私にかかれば攻略なんて一瞬ですけどね?」


騒がしく喋っていた。これは何の話だろうか?まるで今自分がその物語にいるような………


あれ?太めを開けてみると俺は横断歩道にいた。歩こうとした時に隣にいる女子高校生が車に気づかずに歩いていた。俺はそれに気づかず車に引かれて死んでしまった。…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る