子の路
伴美砂都
子の路
右の卵管が詰まっているようです、といわれたときわたしは卵色のレースのワンピースを着ていて、婦人科の診察にそんな浮かれた服を着てきてしまうほどには、きっと毎日うっすらと悲しかった。二つある、卵子が通る道のうちの一つです。自然妊娠はでも、望めないわけではありませんよ。それは命に関わることではないんだよね、ミッチが無事なら俺はいいよ、電話口で夫は涙声を出し、わたしも少し泣いた。どうして泣いたのか、わからない。
夫にも主治医にも内緒で、ピルを飲まずに過ごす月がある。排卵日が近づくと膣の辺りがずっしりと腫れぼったく感じる。不快な重さに、ふとラウンジで足を止めた。硝子張りの外は夕焼け。お疲れさまです、と後ろを行く後輩は、わたしの路が閉じていることを知らない。ああ、今月の卵は通れたか、あるいは、閉ざされたほうを進もうとして、そしてどこへ行っただろうか。思いながら薄く目を閉じ、眼下のオフィス街の道路を眺めていた。
子の路 伴美砂都 @misatovan
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