5月20日(土)晴れ 岸本路子と産賀良助その4
テスト前の貴重な休みとなる森林の日。
そんな今日は路ちゃんに誘われて、午後から路ちゃん宅で勉強することになった。
図書館ではなく家になったのは毎回こちらに来てもらうのが悪いからという理由で、僕は自転車で向かった。
「産賀くん、いらっしゃい~ お昼ご飯は食べてきたのよね?」
「お邪魔します。はい、食べてきました」
「言ってくれたお昼もご馳走したのに」
「もう、お母さん。良助くん困ってるから」
路ちゃんとお母さんのやり取りを見ながら、リビングに到着すると、既に勉強道具が広げられていた。
僕がその向かい側に座ると、路ちゃんはなぜか僕の隣に移動してきた。
「あらあら! 仲がいいことで」
「お母さん。勉強始めるから……」
「はいはい。ごゆっくり~」
嬉しそうな路ちゃんのお母さんがリビングが出ていくと、勉強が始まる……かと思いきや、路ちゃんはやや不服そうな顔で僕を見てくる。
「ど、どうしたの?」
「……何か思い当たることはない?」
「……あ、あります。昨日は本当にごめん」
「……ううん。わたしの方こそごめん。試すような聞き方しちゃって」
「いやいや……」
「でも……日葵ちゃんに褒められてる時、まんざらでもなさそうだったのはちょっと思うところがある」
許して貰えたかと思ったけど、路ちゃんはさらに近づきながらそう言った。
昨日の路ちゃんは石渡さんの方に気を取られていると思っていたけど、日葵さんとの一部始終はしっかり目撃されていたらしい。
「それは……あそこまで素直に褒められると思ってなくて」
「わたしも良助くんを褒めてもらえること自体は嬉しい。嬉しいのだけど……なんだか複雑で……ごめんなさい。今のわたし、たぶん凄く面倒くさいよね」
「そんなことはないよ。何なら……僕からするとちょっと嬉しいかも」
「えっ!? な、なにが?」
「嫉妬してもらえるのが」
「…………」
「じょ、冗談! 路ちゃんに心配かけるようなことはしないから!」
「……良助くん。良助くんは自分のことを過大評価しないタイプだとは思っているのだけれど、わたしからすると好かれる要素がとても多い人だと思うの」
「そ、そうかな」
「だから……別に冗談とかじゃなく、普通に嫉妬してしまう時はあるわ」
そう言いながら路ちゃんは僕のことを真っ直ぐ見つめてくる。
「……今日来てもらったのは、もちろん一緒に勉強したかったのもある。だけど、それと同時に……今日はわたしだけ見てて欲しいの」
「……わかった」
「………………」
「み、路ちゃん?」
「…………自分で言っておいてなんだけれど、めちゃめちゃ恥ずかしいこと言ってる……!」
「いや……僕は路ちゃんのそういうとこも好きだよ」
「うぅ……」
僕は本音を言ったつもりだったけど、その言葉で路ちゃんはしばらく恥ずかしさに悶えていたので、勉強開始は少し遅れてしまった。
路ちゃんの言う通り僕は自分を評価するタイプじゃないと思っているけど、路ちゃんから見える僕の姿は少々違っているようだ。
そこまで言われても自分に高い評価は付けられないけど、路ちゃんを心配させないように普段の振る舞いを考えようと思った。
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