5月19日(金)雨のち曇り 後輩との日常・岸元日葵の場合その16
午前中に雨が過ぎ去ったボクシングの日。
本日も文芸部はお休みだったけど、石渡さんの希望で部室が自習室として開放された。
今回も部長として日葵さんが同席してくれているようだけど、路ちゃんの提案から僕と花園さんを引き連れて部室を訪れた。
「路子さん、と産賀さん、花園さん。お疲れ様です」
このテスト前の期間では石渡さんとの距離を詰めるのは難しいので、今日のところは勉強に集中しよう。
そう思っていると……
「うーーーん……」
日葵さんがノートとにらめっこしながら唸り声をあげていた。
悩んでいるのが口に出てしまうのは癖なのだろうか。
テスト中の用がちょっと心配だ。
「……あっ、産賀センパイ。目が合いましたね?」
「ご、ごめん」
「いえいえ。ちょうどいいのでここ、教えてもらえませんか?」
「うん、いいよ」
そう言いながら僕は日葵さんの隣に座って机を寄せる。
「数Ⅱの問題か。ひまりさんはこういうの苦手だったり?」
「ひまり、現国の成績以外は全部中の中なので」
「自慢げに言われても困る」
「でも、森本センパイはもっとヤバかったらしいですし、ひまりでも部長はやっていけると思います」
「いや、別に成績うんぬんで部長降ろす制度とかないから。それに日葵さんが部長向きなのはそういう部分じゃないと思うし」
「それって褒めてます?」
「もちろん。日葵さんの明るさとかコミュニケーション力とか、いつも凄いと思ってるよ」
「おお……まっとうに褒められるとちょっと照れちゃいます」
そう言いながら日葵さんは少し頬を赤らめていた。
確かに面と向かっては言ってこなかったような気がするし、日葵さんの反応が素直に可愛らしいと思ってしまった。
こういうところを三浦くんに見て欲しいけど、今の彼は僕が褒めた部分が引っかかっているから中々難しい。
「――って、感じで当てはめていけば解けるはずだよ」
「ふむふむ――ホントだ! 産賀センパイ、教えるのめっちゃ上手じゃないですか!?」
「そうかな? まぁ、教えられない状態だと受験が大変だろうし」
「でも、わかりやすく教えられるところはまた違うんじゃないですか?」
「どうなんだろう。一応、他の人に教えた経験はあるから……」
「それって路センパイのことです?」
「ぶっ!? さ、さぁ?」
「なるほど~ そうやって射止めたんですね、このこの~」
「何も言ってないじゃないか!?」
「見ればわかりますって。それに……ひまりもこんな風に毎回教えられてたら、産賀センパイにゾッコンになってたかも?」
「じょ、冗談も程々に……」
「これはわりとマジな話ですよ? 産賀センパイ、褒め上手だし、優しいし」
日葵さんがからかっているのはわかるけど、僕は変にドキドキしてしまった。
僕の方も日葵さんからまっとうに褒められるのは初めてのような――
「んっんん!」
「あっ、路センパイ」
すると、いつの間にか目の前に路ちゃんが現れていた。
「良助くん。わたしもわからないところがあるから教えてもらってもいいかな」
「は、はい! もちろん!」
「わー 路センパイがジェラってるの珍し」
「日葵ちゃん」
「な、なんでもないでーす。でも、たまには産賀センパイのこと借りてもいいですよね? 勉強のために」
「……たまになら」
何か含みのあるような言い方だったけど、今の僕には口を挟む権利がなかった。
その後、路ちゃんから微妙に圧を感じならが残りの時間を過ごした。
なんとうか……二日連続で選択ミスをしている気がする。
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