5月3日(水)晴れ 後輩との日常・三浦将基の場合

 文芸部の歓迎会が開催された憲法記念日。

 場所は例年通り高校近くのファミレスで、僕と路ちゃんは午前中に塾の集中講義を受けて、そのまま向かう。

 ただ、到着したのは僕達が最後だった。


「ど、どうでしょう。変じゃありませんか?」


「全然変じゃないよ。いいセンスだと思う」


「あ、ありがとうございます」


 服装が不安だった石渡さんはどうやらいい感じの服が選べたようだ。

 その他の部員達もそれぞれ話しているけど……


「それじゃあ、本日は無礼講で構わないので楽しんじゃいましょー かんぱい~」


 日葵さんの音頭でドリンクバーによる乾杯を交わした後、2・3年生はそれぞれ新入部員の元に集まる。

 僕と桐山くんは当然ながら最初は三浦くんの席に近づいた。


「あっ、どうもです。ご馳走になります」


 三浦くんはそう言った後、黙々とフライドポテトやピザをつまみ始めた。

 もちろん、歓迎会なので食べて貰って結構なのだけど、先ほど集合した時点で三浦くんは会話の輪に入っていなかった。

 僕は一旦、桐山くんに小声で聞く。


「さっきまでの待ち時間で何か話した?」


「……すんません。挨拶くらいしかしてないっす」


「そ、そうか。よし、ここは……三浦くん。確か西中の出身なんだよね?」


「はい」


「じゃあ、石渡さんとは顔見知りだったり?」


「……いえ。ちょっと見たことあるかなぁってくらいですね」


「そうなんだ……」


「…………」


「…………」


 先陣を切ろうと思ったけど、いきなり会話を途切れさせてしまった。

 こんな風にあまり知らない人と話すのは随分久しぶりなのに、いけると思ったのが間違いだった。


「ど、どうしよう桐山くん……」


「ま、まぁ、無理に話す必要も――」


「うぇーい! そっちはどんな感じ? おっ、三浦くんはいい食べっぷりだねー!」


 そこに割り込んで来たのはパーティーのテンションになっている日葵さんだ。

 今日は部長として取り仕切る立場のせいか、それとも単に新入部員との絡みが嬉しいのか、いつも以上にパリピっぽくなっている気がする。

 すると、そんな日葵さんを見た三浦くんは急に僕と桐山くんの方を見てくる。

 まるで……助けを求めるように。


「桐山はそこそこだけど、産賀センパイはあんまり食べるイメージないですよね? つまり、これからの食べ盛り担当的な?」


「た、担当……」


「あっ、全然遠慮しないで食べてたべて。それにしても三浦くんは――」


「日葵。ちょっとストップだ」


「えっ? なんで?」


「いいからいいから」


 そう言いながら桐山くんは三浦くんから日葵さんを一度引き離す。

 その隙に僕は三浦くんにまた話しかけた。


「びっくりさせてごめんね。日葵さ……部長、こういう催し事だとテンション上がっちゃうタイプだから」


「い、いや……普段も結構テンション高いと思います」


「お、おっしゃる通り」


「……その、文芸部に入部してこんなこと言うのはおかしいと思うかもしれないんですけど」


「うん?」


「……ボク、女子と話すの苦手なんです」


 三浦くんの発言に僕は少し驚きながらも表面上には出さなかった。


「でも、何かしら部活は入っておくべきかなと思って。できれば運動部以外でと考えたから入部したんです。ただ、やっぱ入ってみたら女子多いなーと」


「じゃあ……あんまり居心地が良くない?」


「あっ、いや……そういうわけじゃないんですけど…………部長はちょっと濃いなぁと」


「なるほど……わかるよ」


「え。わかっていいんですか」


「まぁ、僕も最初に日葵さんと絡むのはちょっと疲れると思ってたから。でも、本当に基本はいい子だから、そこは信じてあげて欲しい」


「わ、わかりました……あっ。本当に悪いと思ってるわけじゃないんで」


「うん。わかってるよ」


 僕がそう言うと三浦くんは少し照れているように見えた。

 その後、帰って来た桐山くんも少し三浦くんと話して、女子が苦手である話を共有した。

 桐山くんも少し驚きながらもそれを受け入れて、この日の僕と桐山くんは三浦くんの傍に居座るのに専念した。


 いきなり恋愛脳で来た桐山くんと違って、三浦くんは結構大人しめのタイプらしい。

 ただ、ここで少し話せたおかげで、連休明けの三浦くんとの関わり方がわかった。

 日葵さんには……三浦くんがもう少し慣れるまでこのことは伏せておこう。

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