5月2日(火)晴れ 後輩との日常・石渡沙綾の場合
自転車を漕ぐと少し汗ばんだ郵便貯金の日。
今日が終わればいよいよ5連休となる本日は、文芸部で文化祭に向けての作品制作について少し触れられた。
今からでもアイデアを練っておくと、直前で焦らずに済むというのは新入部員だけでなく、僕にも当てはまることだった。
勉強は最優先だけど、文芸部としての最期の作品も頑張って考えたいと思う。
そうして、本日の内容が終わると、三浦くんはいつも通りひとこと挨拶をして帰宅していった。
明日も歓迎会で顔を合わせるから、そこで何とか……と先週からずっと言っている気がする。
でも、中学の時に卓球部の幽霊部員となった僕に比べたら、毎回きちんと参加しているだけで優秀だと思う。
一方、少しずつ雑談タイムに居座る時間が増えてきた野島さん(妹)と石渡さんは、それぞれ2年生と話していた。
その中で僕はまだあまり絡めていない石渡さんの方に目を向ける。
話している相手は伊月さんだ。
「あの、明日の服装ってどうしたらいいでしょうか……?」
「全然私服で大丈夫だよ。ファミレスだから気楽な感じで着て貰えたら」
「そ、そうですか……」
「何か問題があった?」
「い、いえ……あたし、あまり外行きの服を持っていないので、どうにも悩んでしまって」
石渡さんの発言に僕は心の中で同意する。
ここ最近は路ちゃんと出かける都合上、服のバリエーションを増やさざるを得なかったけど、それ以前は本当の外行きの服を持っていなかった。
塾へ行く際の服装がわりと被っていることに気付いた時は、本当に今日もこれで行っていいのかと悩んだものだ。
……いや、僕と石渡さんの事情を比べてはいけないか。
「あっ、そうなんだ。わたしも前は外行きの服ってあんまり意識してなかったけど……」
「なにか変わるきっかけが……?」
「……あっ。ううん。まぁ、今はそこそこ気にしてるって感じかな」
何かに気付いて言葉を濁した伊月さん。
恐らくそのきっかけは松永なのだろうけど、僕と同じくまだ新入部員にその手札を見せるのは早いと思ったらしい。
ただ、一気にこの事実を知らせると、文芸部が浮かれた部活と思われてしまうかもしれない。
実際はそんなことはない……はずだ。
僕は伊月さん以外だと、桐山くんの恋愛事情しか把握していないけど。
「だから、石渡さんもそこまで気にしなくても大丈夫」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
「ううん。他にもわからないことがあったら、遠慮なく聞いてね」
そう言いながら伊月さんは爽やかな笑顔を見せる。
どうやら石渡さんは2年生を含めた後輩の中でも……良い意味で普通の女子であるようだ。
それと同時に先輩になった伊月さんの人当たりの良さが見られた。
たぶん、中学時代もあんな感じで上手くコミュニケーションを取っていたのだろう。
それに比べて僕は話しかけることなく今日を終えてしまったので、明日には挽回したい。
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