3月28日(火)晴れ 後輩との日常・姫宮青蘭の場合その15

 春休み5日目の火曜日。

 本日は昼の15時頃まで文芸部の勧誘の準備を進めた。

 ポスターやチラシの準備は無事に完成したので、あとは設置個所や当日の勧誘ルールについて全員に共有していく。


「でも、知らない間に新戦力が増えていたとはなぁ」


 僕は1枚のポスターを見ながらそんな感想を漏らす。

 そのイラストを担当したのは姫宮さんだった。

 イラストが描ける人がいると聞いた際には自分では挙手していなかったけど、日葵さんが「青蘭はわりと上手いから1枚担当!」と強引に割り当てられていた。

 実際に完成したイラストは少女マンガチックに見える可愛らしいタイプの絵柄で、僕からすれば普通に上手いと思ってしまう出来だ。


「副部長」


「あっ、ごめん。書いて貰ったのに上から目線みたいになって――」


「もっと褒めてもいいですよ」


「そ、そっちかぁ」


 そう言った姫宮さんはいつも通りの表情ながらもドヤ感のある空気を出していた。


「めっちゃ上手いです! 姫宮さん!」


 姫宮さんの言葉にすぐ反応した桐山くんはそう言う。


「桐山のは別に求めてないけど」


「そんなぁ……」


「受け取り拒否はしないのでありがたく預かる」


「よし!!!」


 言うほど好感触なのかはわからないけど、桐山くんが嬉しそうだからそれでいいのだろう。


「それで副部長も追加のコメントは」


「コメント……可愛い絵だと思うよ」


「他には」


「他は……色使いも素晴らしい」


「もう一声」


「う、うーん……わりとじゃなくてシンプルに上手い」


「満足しました」


 そう言うと姫宮さんは日葵さん達がいる方に流れていった。


「産賀先輩……前々から思ってたんすけど」


「なに?」


「産賀先輩って姫宮さんにめちゃめちゃ懐かれてないすっか……?」


「そ、そう? どちらかというと面白がって遊ばれてるだけだと思うけど」


「だって、さっきの反応からして俺と産賀先輩の扱いの差が違うじゃないっすか」


「まぁ、そこは先輩と同級生の差というか……」


「そんなこと言って! 産賀先輩が隠れモテ男なのはもうわかってるんすから!」


「こ、こら! 桐山くん余計なことを……」


「余計じゃないっす! こっちは死活問題なんすよ!?」


 路ちゃんが反応しないかひやひやしながら、僕は何とか桐山くんをなだめる。

 いや、実際モテ男なわけがないから焦る必要はないんだろうけど。


 でも、確かに姫宮さんは出会った時からよく喋ってくれるので、何かしら僕に親しみやすさを感じてくれているのだろう。

 僕としては未だに会話の独特さに戸惑うことはあるけど……4月からの新入生も付いて来られる子が入部してくれると信じている。

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