3月29日(水)晴れ 先輩方のお見送り
春休み6日目の水曜日。
本日は文芸部の3年生を見送る会が昼からファミレスで行われた。
月末が迫る中での開催になってしまったけど、遠方に行く予定の先輩も全員参加できたのは良かったと思う。
ただ、卒業式で聞いたあの件が僕や路ちゃんは引っかかっていた……
「えー? どうしたの2人ともあたしの顔見て深刻な顔してー?」
「当たり前だろう。ほら、ちゃんと報告するんだ」
水原先輩に促された森本先輩は少し間を空けてから、
「まー、結局後期試験は受けなかったんだけどー」
「落ちたではなく受けなかった!?」
「そうだよー 諸々考えて今の本屋さんで働くことになったー」
と、いつも通りの口調で知らせてくる。
行き先があるならひとまず安心……と思っていたけど、隣の水原先輩は呆れた感じだった。
「まったく……行き当たりばったりにも程がある」
「いやいやー 元からちょっと考えてた部分もあるからー あたしは勉強向いてないしー」
「そうだとしても……」
「もー 今日はめでたい席だから説教はなしにしましょうやー 結果的には何とかなったわけだしー」
「……そういうわけだから。産賀と岸本、時々はこいつが働いてるところに顔を出して貰えると助かる。ついでに報告もお願いすることになるが」
「わ、わかりました」
「汐里は心配性だなー」
「そこまでじゃないが……でも、暫くは会えないから」
「おー 可愛いところあるじゃないー」
「ち、違う! 私はあくまで……」
言い訳をする水原先輩に対して、森本先輩はからかい気味に茶々を入れる。
僕としては水原先輩の気持ちの方がわかるけど、森本先輩自身が進む道が見えているなら、心配し過ぎてもいけないのだろう。
見送るつもりが見守る約束が増えてしまったのは予想外だけど。
「ウーブ君……うわあぁぁぁん」
「ど、どうしたんですか!?」
「……今、何を見ても泣く状態に……なってる」
「だってぇ、改めてお別れだと思うと……うわあぁぁぁん」
一方、ソフィア先輩は卒業式の時から変わらない……いや、悪化しているように見えた。
確かに寂しさは感じるけど、ここまで惜しまれるとは思っていなかった。
「ほら……お見送りして貰う会なんだから……笑顔も見せないと」
「ぐすっ……うん。ありがと、シュウ」
「全然。これくらいは……」
「ううん。シュウはこの1年で結構大人になったと思う。ソフィアは逆に……子どもっぽくなってるのに」
「別に……ボクもまだ子どもだよ。それと……別れを惜しむ心は、悪いことじゃない」
そう言いながら藤原先輩はソフィア先輩の肩を優しくさすっていた。
受験前の期間はあまり話す機会がなかったけど……ソフィア先輩の指摘通り、藤原先輩はかなり大人びた気がする。
元から声が低いのもあるけど、ソフィア先輩に対する雰囲気や気遣いが以前とは変わっているように感じた。
「じゃあ……思い出としていっぱい写真撮らなきゃ! 華凛ちゃん、一緒に撮っていい?」
「か、華凛ですか?」
「うん。忙しくて華凛ちゃんが入部した後は全然行けなかったけど、文芸部に入ってくれたのは本当に嬉しかった! もっと話してみたかったなぁ」
「それは……華凛ももう少し早く判断すべきでした」
「いやいや。自分で入部したいペースがあるから、華凛ちゃんは悪くないよ。単にソフィアが……もっとお話し……ぐすっ……してみたかっただけで」
「あっ! え、えっと……」
「汐里、見てみてー ソフィアの泣き絡みー」
「呑気なこと言ってる場合か。こんな時は……藤原、任せた」
「……ソフィア、お水飲んで落ち着こう」
花園さんを巻き込んだそんな一幕もありつつ、4時間ほどで会はお開きとなった。
先輩方がそれぞれの道に進み始めたら、今日のように集まることはもうないかもしれない。
それでも2年間楽しい時を過ごさせてくれた先輩方には感謝しかなかった。
新しい環境でも元気に過ごしてくれることを願っておこう。
「あー うちはスタンプカードやってるからあげるねー 今後はご贔屓にー」
……まぁ、暫くは疎遠になることはなさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます