3月27日(月)晴れ 岸本路子との春集まり

 春休み4日目の月曜日。

 この日は午後から路ちゃんと一緒に学校近くの河川敷あたりを散歩することになった。

 先日も書いたように桜が色づき始めたので、少し早い花見をしようと思ったのだ。


「思っている以上に桃色になってる……本当にもうお花見してもいいくらい」


「うん。今年の冬は温かい方だとは思ってたけど、こうやって桜が早く咲き始めるんだからより実感するね」


 さすがにまだシートを広げて花見をしている人はいなかったけど、同じく散歩している人や自転車で通りがかる人の目線は確実に桜に注がれていた。

 毎年見ているはずだけど、最近はこうやって春に桜を見るのがいいものだと感じるようになった気がする。

 子どもの頃はそれこそ花より団子だったから……


「あっ」


「どうしたの、良助くん」


「いや……なんでもない」


「何か忘れ物でもしたの?」


「忘れ物というよりは……」


 唐突に思い出してしまった方だった……去年の今頃に清水先輩と桜を見て歩いたことを。

 本当に駄目な男だという自覚はあるけど、散歩に行くと言えば専ら清水先輩とだったから、意識してなくても思い出してしまったのだ。


「……というわけです」


 そして、僕はそれを隠さずに路ちゃんと話した。

 その理由は……恐らくこの春休み中にまた清水先輩から散歩に誘われる可能性があるからだ。

 僕としては清水先輩が親しくしてくれるのは歓迎だけど、その感情と路ちゃんへの感情は別だと言っておきたかった。

 ……言い訳と言われたらその通りだけど。


「なるほど……なんか凄く納得しちゃった」


「な、なにが?」


「良助くんが清水さんに惚れちゃったの」


「ぶっ!?」


「だって、そんな風に散歩に誘ってくれていつも親しくしてくれる異性の先輩がいたら、わたしだって気になってしまうと思う。きっと先輩の方に気があると思ってしまうかもしれないわ」


「路ちゃんはそういうタイプじゃなさそうだけど」


「それは……うん。まずはネガティブな方から考えると思う。それでも清水さんはなんというか……無邪気な感じだから余計に信用してしまいそうな気がするわ」


「そ、そこまで深堀されて考えられるとは思わなかった」


「ふふっ。わたしは……今なら良助くんと清水さんの関係を心穏やかに見れるから。むしろ、今はこうやって……わ、わたしの方を選んでくれたのだし……」


 路ちゃんは自信を持って言おうとしていたけど、結局は恥ずかしそうにしていた。

 でも、確かに今年桜が色づいたとニュースで見た時、誘おうと思ったのは路ちゃんだった。

 付き合っているから当たり前ではあるんだけど……僕の心は完全に変わったのがよくわかる。


「それはそれとして……わたしと歩いているのに他の女性のことを思い出すのはどうかと思う」


「お、仰る通りです……」


「バツとして……腕を貸して貰います」


「う、腕?」


「う、うん……組むのはさすがに恥ずかしい?」


「いや! 全然……むしろ組みたいです」


「じゃあ……お借りします」


 その後、河川敷を外れて店に入るまでは路ちゃんと腕を組んで歩いた。

 半分くらいは僕の失敗エピソードだったはずだけど、結果的には惚気話のようになっているのは許して貰いたい。

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