10月16日(日)晴れ 文化祭は騒がしい(ソフィアとシュウの完結編:急)
二日連続で過ごしやすい天気で迎えた日曜日。
文化祭二日目も滞りなく始まり、本日もコスプレ効果のおかげか午前中から多くの人が見学に来てくれる。
しかし、この日の僕には文化祭を無事に終えるのと同時にやらなければならないミッションがあった。
「リョウスケ、去年の悲劇が起こったのは日曜日です。今日も気を引き締めていきましょう」
路ちゃんが会わない方がいいと思われる人達の見張りと、
「良助くん、終わり際になったら計画通りにいこうね」
ソフィア先輩と藤原先輩の告白を成功させることだ。
だけど、後者に関しては少々ややこしい状況にある。
「藤原先輩、結局どのタイミングで告白する予定なんすか?」
「それは……今日、一緒に回るタイミングで……判断する」
2人はそれぞれ告白を実行しようとしていた。
その時点でもう勝利確定と言っていいのだけど、両方から話を聞いてしまった僕は、どちらの告白を成立させるべきか、未だに悩んでいた。
藤原先輩の判断によっては終わり際に演技する必要も無くなるんだけど……こういうのってされる側とする側のどっちがいいんだろうか。
それぞれが悔いがないようにして欲しい死、変に片方だけ応援してどちらも告白できなかったという事態は絶対に防がなければならない。
「あ、あの、藤原先輩」
「……?」
「ぼ、僕個人の意見なんですけど、文化祭の終わり際とかいいんじゃないかと思います。ちょうど片付け前に部屋を空けるタイミングがあるので」
「へー、それもいいっすね。でも、一緒に回ってる途中にさらっと言うのも……」
「んんっんん!!!」
「ど、どうしたんすか、産賀先輩?」
桐山くんに何とかわかって貰うために念を送る。
ちなみに今日も浮かれた司会者の恰好なので、今の僕はめちゃめちゃ変な奴に違いない。
「……わかった。参考にさせて貰う……」
ただ、藤原先輩の方には取り入れて貰えそうだった。
あとは僕らが展示室を空にする状況を作って、どちらか察して上手いこと運んで貰うしかない。
◇
「やっほー うぶクンとミチ~ 見に来たよー」
昼食を終えて午後。一般の方が流れて来る前に大山さんが友人を連れて見学に来てくれる。
「あっ、ついでに廊下でぞのサン見つけたから一緒に来たよ」
「……どうも」
「かりんちゃん、今日も来てくれたんだ」
路ちゃんは嬉しそうにするけど、花園さんの僕に対する目線は「捕まってしまいました……」と言っている風だった。
(ま、まぁ、少しくらいなら大丈夫だよ)
僕はゆっくり頷くことでそれを伝えようとする。
それを見た花園さんはやや不安そうな顔だったけど、大山さん一行と展示を回り始めた。
代わりに僕は入って来る一般の人に目を光らせ始める。
日曜日ということもあって、様々な年齢の人が足を運んでくれるけど、昨日よりは学生の人数は増えているように感じる。
その中で、女子高生の集団が……
「良助くん……?」
「な、なに!?」
路ちゃんに突然声をかけられたので、僕は驚きながら反応してしまう。
そのせいで路ちゃんまで驚かせてしまった。
「ご、ごめんなさい。急に呼んだりして。やけに出入口を見てたからどうしたのかと思って」
「あっ、いや……」
「もうすぐ妹さんが来るんだよね?」
「えっ……ああ、うん。何時か聞いてないんだけど」
他にやることが詰まっていたからすっかり忘れていた。
すると、噂をすれば何とやらで、ちょうど明莉と桜庭くんが訪れる。
「わぁ~ 本当にコスプレしてる! 岸本さん、とても似合ってますね!」
「あ、ありがとう……隣の人がもしかして……」
「お兄ちゃんから聞いてましたか? はい、お付きいしてる桜庭正弥くんです」
「ど、どうも……」
「なに緊張してるの? あっ、まさかコスプレに見惚れて……」
「ち、違う違う!」
「ふふっ。良助くん、良ければわたしが案内したいのだけれど……」
「うん、お願いするよ」
だけど、路ちゃんの目をそちらに向けるタイミングとしてはちょうど良かった。
それから花園さんが大山さんから解放されるまで出入口を注視していたけど、それらしい人物は見えなかったし、その後も路ちゃんが何か反応することはなかった。
僕と花園さんが見逃しているのか、あるいは今年は来てなかったのか。
「妹さんと彼氏さん、とっても幸せそうだったな……」
どちらにせよ路ちゃんは楽しそうに過ごせていたので、僕と花園さんの隠れた苦労も報われたと言える。
◇
そして、一般の入場が終わり、片付けに入る前の時間。
「み、みんな。片付けの前に相談したいことがあるから、ちょっと部室の方に集まって貰っていいかな?」
路部長の呼びかけで事情を知らない1年生と3年生達は一旦部室へと移動させられる。
その瞬間、ソフィア先輩と藤原先輩がこっそりと抜け出したのを確認した。
「……これで大丈夫だよね?」
「うん。あとは……2人に任せよう」
それから部室で20分ほど話した頃、2人が合流したのを確認すると、文芸部も片付けを始める。
結果は気になるけど、片付けるまでが文化祭だから、そちらを優先していく。
ただ、男子がボードを運び出す中で、藤原先輩の口が開いた。
「……2人ともありがとう」
「い、いえ……」
「全然問題なかったすよ……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……OK……貰った……」
やや照れながら言う藤原先輩を見て、僕と桐山くんは静かに拍手した。
「ど、どんな感じったんすか!?」
「桐山くん、それはまた追々……」
「……そうして貰えると……助かる」
「そ、そうすっよね。失礼しました……」
思わず桐山くんを嗜めてしまったけど、僕も気持ち的にそわそわしてしまった。
そして、展示室に戻ってくると、女子陣の方からも同じ空気を感じ取る。
だからこそ、片付けを終えたら僕達は素早く解散した。
「……産賀先輩。なんか凄い達成感ありますね。これが高校の文化祭っすか」
「いや、高校の文化祭要素があったかはわからないけど……確かに達成感はあるなぁ……」
文芸部の好評だったところはあまり書けていないかもしれないけど、それも含めて全体的に満足感のある文化祭だった。
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