10月2日(日)晴れ 伊月茉奈との日常その7

 快晴の日曜日。

 本日は明莉の中学校で運動会が行われる日だ。

 明莉からは特に来て欲しいと言われていないけど、中学最後ということで何となく昼前に足を運ぶことにした。

 

到着した時には玉入れをしている時間で、運動場は球が乱れ飛んでいたから中に誰がいるか全くわからない。

 最も僕には見るべき後輩が明莉と桜庭くんくらいしかいないけど。


「あれ? 産賀さん?」

 

そんな玉入れの光景をボーっと見ていた僕に声をかけた伊月さんだった。

 その隣にはお連れの方を想われる女子が2人いた。


「お疲れ様です。産賀さんも運動会を……あっ、妹さんがいるんでしたよね」


「うん。伊月さんは後輩を見に来てあげたの?」


「はい。昨日急遽行こうって話になって」


「なるほど。松永が知らなかったわけだ」


「あっ、昨日は浩太くんがお邪魔してたみたいで……」


「茉奈、もう家族面してるのー?」


「ひゅーひゅー!」


「ち、違うから。一応、わたしが構ってあげなかったせいもあるし……」


 伊月さんは言い訳をするけど、お友達の女子はここぞとばかりにからかっている。

 こういう場面で弄られるのは少し不憫な気がするけど、オープンにしてみんなが受け入れているなら良い関係と言っていいのかもしれません。


「す、すみません、産賀さん。騒がしくしてしまって」


「いやいや。一人寂しく見てたからちょうどいいよ」


「妹の運動会を見に来るなんて仲いいんですねー うちの兄貴とか全く興味なしですよ」


「妹ちゃんは今出てるんですかぁ?」


「ちょ、ちょっといきなり……本当にすみません」


 伊月さんのお友達は結構活発な感じだった。

 そうなると、伊月さんの周りは常に松永や日葵さんみたいな人がいることになる。

 伊月さんが引き寄せているのか、それとも仲良くなるのがそういうタイプなのか。


「残念なことにどれの種目に出るか教えて貰ってないんだ。今日見に来るのもどっちでもいいって感じだったし」


「そうなんですかー まぁ、この時期はフクザツですもんねぇ」


「ゆうて、うちらも去年の話じゃん? ほら、茉奈だって………」


「ストップ! 何言おうとしてるの!?」


「いや、高校からの先輩なら茉奈の意外とやんちゃなところを……」


「わー! わー!」

 

伊月さんは必死に声を出してお友達の言葉を妨害する。

 僕としてはかなり気になる話題だけど、伊月さんが嫌がっているのに掘り下げるのはよくないだろう。

 それに……


「いや、僕もこの中学の出身なんだ、一応」


「あっ……なんかすみません」


「知らなかったですー」


 僕は単に事実を知らせたつもりだったけど、伊月さんのお友達は露骨に気まずそうな感じになる

 男子の先輩なんて目立つ立場じゃなければ把握してるわけがないんだけど、真面目な反応だ。


「そ、それじゃあ、僕はこれで。今日はちょっと暑いから水分補給を忘れないように」


 その空気のまま僕はその場を離れて行く。

 しかし、そこへ伊月さんが追いかけてきた。


「産賀さん……あの」


「あれ? どうかした?」


「いえ、話題を避けてくれてありがとうございます」


「ううん。僕が事実を言って自滅しただけだから」


「……ふふっ。産賀さんも去年の今頃までわたしのこと知らなかったですもんね」


「同級生の女子すら全員覚えてるか怪しいからね。自慢にはならないだろうけど」


「わたしも男子については大差ありません。ただ……中学時代にも産賀さんと話しておけば良かったなぁと思います。産賀さんは空気読んでくれるので」


「そ、そう? 松永に言ったら嫉妬されちゃうなぁ」


「ち、違いますよ!? 別にそういう意図があるわけじゃ……」


「わかってるよ。じゃあ、改めてお友達と楽しんで」


 僕はそう言い残して場所を移動した。

 伊月さんの僕に対する信頼は松永を通してできたものだから、普通に会っていたら話すことがなかったかもしれない。

 でも、もしもの話をするなら、僕も中学時代から伊月さんみたいな後輩に慕われる生活をしてみかったなぁと少し思った。

 ちなみに明莉の活躍はあまり把握できなかったとさ。

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