10月1日(土)晴れ 松永浩太との歓談その6

 10月が始まった土曜日。

 お決まりの感想ではあるけど、早いもので今年もあと3ヶ月で終わると思うと1年が過ぎるのは早い。


 そんな今日の午後は部活終わりの松永が暇していると言うので、うちへ遊びに来ることになった。


「茉奈ちゃんは用事あるみたいでさぁ……あっ、別にりょーちゃんが二番目の男ってわけじゃないから安心して」


「別に心配はしてない。伊月さんは昨日文芸部の提出でがんばってたし、ちょっと休憩でもしたかったんじゃないかな」


「それだと俺が一緒にいるとリフレッシュできないことにならない? えっ、用事って、そういうはぐらかしだったってこと!?」


 ささやかな仕返しのつもりだったけど、想像以上に刺さってしまった。


「いや、聞いた話じゃないから適当に言ってるだけ」


「なぁんだ。まぁでも、忙しかったのは知ってるよ。文芸部はこっちが本番だろうし」


「そうだな。僕もなんだかんだやらなきゃいけないことが色々あるよ」


「卓球部の幽霊部員だったりょーちゃんが今や立派な副部長として活躍してると思うと感慨深い」


「そんな大げさな。できることをやってるだけだし」


「それが凄いんじゃない。俺なんて候補にすら挙がらなかったんだから」


 スポーツ系の部活は夏休み前後で3年生が引退していて、体育祭の時には2年生の新部長達が中心に動いていた。


「意外だ。松永なら結構まとめる能力あると思うのに」


「嬉しいこと言ってくれるじゃない。でも、俺の部活に対するスタンスは体を動かすために行ってるだけだから、遊びに行く時ほど仕切ったりしないんだよね。どっちかというと賑やかし的な?」


「ふーん、そうなのか」


「あとはシンプルに部活の部長って役割はやりたくなかった」


「まぁ、それはわかる。僕も避けられる状況だったら遠慮してたよ」


「でも、今は結構楽しいんでしょ」


「うん。周りがしっかり助けてくれるし、部長が路ちゃんだからやりやすいっていうのもあるからね」


 僕は何の気なしに言うと、松永はちょっと驚いた表情になる。


「な、なに?」


「いや、これもまた感慨深い案件なんだけど、自然と岸本さんのことを呼べるようになったなぁと」


「べ、別に結構前から呼んでたよ! 今更言われる方が恥ずかしいわ1」


「改めて聞いたらそう思っちゃった。そう、それで言ったら体育祭の時の岸本さん、なんか可愛かったよなぁ。走りかとか雰囲気とか……」


「それ路ちゃんが気にしてたからあんまり言わないであげて。あと、一応言っておくけど、伊月さんの前で言ったら絶対睨まれるぞ」


「それは俺が一番よくわかってるから今言ってるの。でもそうか、本人にはいわないようにしなきゃ」


 そんな感じで松永と近況や世間話をして午後の時間は過ぎていった。

 大倉くんと遊ぶ時は必ずゲームをしているけど、最近松永と遊ぶ時は特に何もしていないことが多い。

 どちらがいいというわけじゃなく、こんな喋るだけの時間が定期的にあるのもいいものだと思った。

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