9月8日(木)曇り 今年の忖度

 天気予報で言われていたよりも涼しさを感じた木曜日。

 この日の5時間目は体育祭の出場種目決めが行われた。

 昨年と同様に一種目は必ず出場する必要があるけど、去年から腕力や脚力は成長していなかった。


「りょさんは……綱引きいっとく?」


「動かざること山の如くかんばらせて頂きます」


 相談の結果、今年の僕は綱引きの重量要員として駆り出されることになった。

 中学時代も身長と体重はそこそこあったので、この役割を任せられることは珍しくない。

 でも、選ばれたのはそちらの理由ではなく、恐らく普段の体育での体力無さから忖度して貰った結果だろう。


「あれ? 良ちゃんって部活対抗リレーで結構いい走りしてなかったけ?」


「あー、そうだった気がする」


 しかし、決まりかけたところで余計な言葉が割り込んでくる。

 確かに僕も記憶に残っているが、どうしてここで持ち出してしまうんだ。

 あの時のそれは奇跡に近いもので、普段の走りを見れば僕にリレーの適性がないのはわかってくれるだろうに。

 それに今その話はとても個人的な理由で掘り返されるのが……


「りょさんは今年も部活対抗リレー走るの?」


「た、たぶん。男子3人しかいないし」


「女子はあんま出たがらないもんなぁ。そもそもオレらみたいな文化部を走らせる意味あるの?」


「それを言ったら陸上部を走らせるのもどうよ」


「いやいや、あれで案外サッカー部とかの方が速かったりするから……」


 ただ、今回の我がクラスの男子はそれほど体育祭へのモチベーションが高いわけではなかったので、話はそれぞれの部活の愚痴へと流れていく。

 そう、これでいいのだ。

 僕が本気を出すべきは文化祭であって体育祭はその時ではない。


「大倉くんは今年もムカデ競争か」


「う、うん。足の速さ関係ないからありがたい競技だよね」


「そうだよなぁ。部活対抗も別競技にしてくれたらいいのに」


「別競技……玉入れならあんまり差がないかも?」


「確かに。文化部で身長差がそんなに開くことは無さそうだから……次の生徒会の要望に出そうかな」


「ほ、本気だね」


「もちろん。来年も走らなきゃいけないだろうし」


 僕がそう言うと、大倉くんは若干引いていたような気がした。

 共感されると思っていたけど、さすがにネガティブな方向にやる気を出し過ぎていたみたいだ。

 まぁ、今年の体育祭は特に楽しみもないし……自分で言ってまた胸が痛くなってきた。

 僕は文化祭のことだけ考えるようにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る