9月9日(金)晴れ時々曇り 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その8

 気付けば週末の金曜日。

 火曜日の部活動が飛んでしまったので、今日が2学期初めての文芸部の活動だ。

 最初にミーティングを行い、路ちゃんから文化祭の創作物の進捗状況についてアナウンスされる。

 今年も印刷の関係から9月の月末付近が締め切りになるので、そろそろ形が見え始めなければならない時期だった。


「俺、まだ半分もできてないっす……」


 桐山くんは正直に状況報告をする。

 でも、この時点ならまだ全然間に合うので問題ないと路ちゃんはフォローを入れた。

 実際、去年の僕も体育祭の前にはまだ完成していなかった。


「じゃあ、今年はどうなんですか?」


「……できたよ。ちょうど夏休みの終わり頃に」


「そうなんすかー 宿題もしながら仕上げるなんて凄いっすね!」


 桐山くんは褒めてくれたけど、僕としては複雑な気持ちだった。

 そう、夏休み中盤だとまるで形が見えていなかった僕の小説は、夏休みの終盤に完成していた。

 しかし、やる気を出してやったわけではなく、あの時期は他のことに手がつかない状態だったというのが正しい。

 だから、今見返すと文章的におかしなところも多いかもしれない。

 提出までの残り時間はそこを修正する時間に費やそうと思う。


 それはさておき、僕と桐山くんが雑談タイムに入ってるのは、今日の本題とも言える部活対抗リレーの出場者決めの時間になっていたからだ。

 僕と桐山くんは早々に参加を表明した(桐山くんは乗り気だったけど、僕はそうでもなかった)ので、残りは3名だ。


「あたしはもう老人なんでパスしまーす」


「最初から沙良には期待してないだろう。私は走れなくはないから出てもいいが……」


「ソフィアは出てもいいよ? シュウは?」


「……男子が出た方がいいなら」


「本音は?」


「……あまり出たくはない」


 先輩方のリレーへの意欲は半々といった感じだった。

 ただ、去年は3年生抜きで走ったので、今年もそうした方がいいのではないかと悩んでいた。

 いや、主に悩んでいるのは……路ちゃんだけなんだけど。


「や、やっぱり部長だから出た方がいいと思う……のだけれど、本当に走りはダメダメだから……」


 副部長の僕が早々に出ると言ったのと、去年は森本先輩が嫌々ながらも出場したことがあって、自問自答を繰り返していた。

 苦手なら無理をする必要はないと先輩方は言っているけど、それが余計に路ちゃんを悩ませる。

 僕も同じタイプなので気持ちはよくわかる。


「路。それよりも1年生の出場意欲から聞いた方がいいと思うぞ。日葵はどうだ?」


 助け船を出した水原先輩がそう聞くと、日葵さんは待ってましたと言わんばかりに手を上げた。


「ひまり、こう見えても結構足に自信ありです! 優勝目指します! 一緒に頑張ろうね、青蘭?」


「私は他人と競うのが苦手なのでパス」


「なにその理由!? 体育祭のこと全否定じゃん!」


 日葵さんは出てくれそうだと思っていたし、姫宮さんが断るのは何となく予想できた。

 しかし、その言葉を聞いた途端に隣の桐山くんはひどく落ち込む。


「姫宮さんからのバドンが貰いたかった……」


「ま、まぁまぁ。かっこいいところ見せるってことでいいんじゃない?」


「はっ……! そうっすよね! 優勝目指して頑張ります!」


 別に部活対抗リレーは優勝どうこうではないと思うし、そもそも文化部同士の戦いだからそれほどヒートアップしないと思うけど、やる気があるのはいい事だ。


「わたしも走れる方だと思うので、良ければ出場します」


「茉奈~! 茉奈ならそう言ってくれると思ってた!」


「いや、そこまで感動しなくても……そもそも部活対抗リレーってお楽しみ競技みたいなものだし」


 伊月さんは日葵さんのテンションに対して冷静に切り返す。

 でも、僕としては去年の中学の運動会で伊月さんの走りを見ているので、宣言通り走れる方だと思っている。


 そうなると、残りは1名になるけど……


「……わかりました。わたしも走ります」


「大丈夫? 別にソフィア達も体育祭本番が忙しいわけじゃないし、全然出られるよ?」


「だ、大丈夫です。あくまでお楽しみ競技ならわたしが走っても何ら問題がない……はずです」


 そう言いながらも路ちゃんの表情はまだ葛藤していそうだった。

 けれど、本人がそう言うなら誰も止められない。


 こうして、今年の文芸部の部活対抗リレーのメンツは僕、桐山くん、路ちゃん、日葵さん、伊月さんに決まった。

 あとはリレーの順番についてだけど……


「……今日のところはメンバーの決定だけで」


 路ちゃんの心労を考えて後日決めることになった。

 何だか路ちゃんが過剰に背負っているのを見ると、僕も不思議と頑張らなければならないような気がしてきた。

 優勝は目指さないけど、無様にならない程度に走ろうと勝手に決意した。

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