7月8日(金)曇り 停滞する清水夢愛その11
テスト最終日の金曜日。1週間続いたテスト期間が終わるとなると、テスト結果にかかわらず何だか達成感を覚える。実際のテストの手応えについては、今回も危ない教科はないといういつも通りのつまらない感想になってしまうけど。
そんなテスト終わりの放課後。文芸部は部活を行わないのでそのまま帰宅しようかと考えていたけど、ちょうどその時、清水先輩から連絡が入る。
「お疲れ、良助。テストはどうだった?」
「お疲れ様です。そこそこできたと思います。清水先輩の方は……テスト勉強して良かった実感ありました?」
「どうだろうな。結果が出る前はわからん」
「そうですか。それで今日はこれからどうするんです?」
「まぁ、ちょっとぶらぶらしようかと思ってな。お昼ご飯には帰れるようにするから安心してくれ」
「僕は昼何か買って帰るので時間は気にしないで大丈夫ですよ。むしろ……し、清水先輩が良かったら一緒にお昼食べるのも……」
「おお、そうか。じゃあ、考えておくよ」
そう言いながら清水先輩は歩き出すので僕は急いで付いて行く。この考えておくというのは前向きな保留かどうかわからないけど、本題はそっちないのであまり追及しない方がいい。
「テストが終わると……そろそろ本格的に進路を絞っていく時期だ」
「あっ……そうですよね。僕らも進路希望調査やると聞いてます」
「そうか。でも、私は今の良助の時期から未だにそのことで悩んでいる。そんな状態で担任にはなんて言ったらいいんだろうな」
「それは……他人事のように言うと思われるかもしれないですけど、思い切って伝えてみるべきだと思います」
清水先輩が両親とまだ離れたくないという気持ち。それは人によっては親離れできないと思われるかもしれないけど、高校生の僕たちはまだ子どもだ。そんな子どもの相談について、先生が下手な返答を出すことはないと思うし、何か解決の糸口になってくれるのではないかと僕は思った。
しかし、清水先輩は少し困ったような顔で言う。
「そうなのかもしれないが……担任的には大学進学する場合、レベルの高い大学に行くべきだと進められるんだ。私が特にやりたいことが決まってなくて、両親的に大学進学を勧めてくれるのならそうした方がいいって」
「でも、自分が行きたい大学に行くように説得すれば……」
「私の場合、近場の大学に行く理由が両親と離れたくないからで、手段と目的が逆になってるんだ。そうなると、興味がない大学に行くのはそもそもお金の無駄になると思う」
「そ、そうですか……」
「だったら、就職を考えるけど、今の状態だと特に資格もないし、行けるところは限られるだろうな。それで就職に手間取っていたら、返って両親に迷惑をかけてしまいそうだ」
「…………」
「すまん、良助。相当わがままなことを言ってる自覚はあるんだ。だから、たぶん私はどちらかを切り捨てなければいけないんだと思う。両親の傍にいるために収まるべきところへ収まるか、両親から離れて迷惑にならないような道へ進むか」
そう言いながら清水先輩は一人考え始めてしまう。その時点で今日のこれは僕への相談じゃなくて、僕へ言うことで自分の中の考えを整理しているのだとわかった。
それと同時に、清水先輩が本当に話すべき相手は僕でも担任でもなく、清水先輩の両親なのではないかと改めて思った。
「いや、あともう1つだけ候補があるな」
「えっ? 何ですか?」
「それは……私が未来の技術を学べる大学か企業に就職してタイムマシンを作ることだ」
「た、タイムマシン?」
「いや、冗談で言ってるんじゃないぞ。だって、そうすれば過去の私やそれを取り巻く環境を変えられるかもしれないじゃないか。そうしたら……きっと今の私も満足できると思う」
遠くを見つめる清水先輩は本当にそれを信じているのだろうか。
結局、この日も清水先輩の答えは見つからなかった。でも、僕からすると少しだけヒントを得られた気がする。そこから清水先輩が満足できる着地の仕方を僕も考えてみようと思う。
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