7月7日(木)曇り 伊月茉奈との日常その5
テスト4日目の木曜日。本日は七夕だ。去年は七夕ゼリーのことを書いたような、そうでなかったようなという曖昧な感じなので、僕にとっての七夕はそれほど所縁のある日ではない。
だけど、七夕がその由来から何となくロマンティックな日であることは僕でもわかる。
「お疲れ様です、産賀さん」
「伊月さんもお疲れ」
そんな今日は何故か伊月さんと待ち合わせ……というわけではなく、松永を含めて一緒に帰ることになった。
今日に限って言えば本当に邪魔な気がするけど、2人は特に何も言わないのでそのまま付いて来てしまった。そもそも七夕はクリスマスと違って恋人が一緒にどうこうする日ではないのだけど。僕は意外にロマンティック脳なのだろうか。
しかし、肝心の松永はお腹の調子が悪いらしく、合流する直前にトイレに行ってしまった。別にそれ自体は悪くないし、テストの日に災難だとは思うけど、この時点でロマンティックは無理だったかもしれない。
そんなこんなで、僕と伊月さんが待たされる状況になったのだ。
「浩太くん、大丈夫だったんでしょうか……?」
「うーん……どうだろう。お腹の不調はあんまり見たことないから、昨日何かあたりそうな物でも食べたのかな」
「あっ、それも心配ですけど……テストの方が大丈夫だったのかなぁと」
「あ、ああ。そっちね」
伊月さんは弄っているわけではなく真面目に言っていた。僕と伊月さんでは松永に対する心配の重点が違うらしい。
「昨日まで一緒に帰った中だと特に何も言ってなかったよ」
「それってテストの話をしてないだけじゃないですか……?」
「……よくわかったね。まぁでも、本当にヤバそうなら何か言うと思うから」
「産賀さんがそう言うなら……」
そう言いつつも伊月さんは心配そうだった。これはいくらフォローしても伊月さんの性格上気になってしまうのだろう。
そんなことを考えていた僕は、昨日までのことを振り返ったことで、月曜日の話を思い出す。
それを聞くのは無粋なような気がしてしまうけど、どうしても気になって僕は口を開いた。
「伊月さん、松永から聞いた話なんだけど」
「はい? 何ですか?」
「松永って本当に普段から伊月さんに口説き文句とか言ってたりするの?」
「え……ええっ!? くくく、くどき……」
「ああ、いや……何て言ったらいいからわからないんだけど、伊月さんを喜ばせるような台詞?とか言ったり?」
さすがに恥ずかしい台詞や歯が浮く台詞とは言えないので言葉を探してみるけど、ぴったりな表現は見つからない。
一方、伊月さんは僕がこれまで見てきた中で一番あたふたしていた。
「ごめんね。変なこと聞いて。忘れてくれていいから」
「い、いえ……その……他の人がどうかはわからないんですけど……結構……言います」
「お、おお」
「と、とは言っても! 毎日言うとかそういうわけじゃなくて! た、たまにですよ? す……好きとか、あ、愛――」
「二人ともお待たせ~ いやぁ、柄にもなく緊張でもしたのかなぁ……何かあった?」
恐らくすっきりしていつもの調子の松永は耳まで真っ赤になった伊月さんを見る。すると、伊月さんは説明を止めて、すぐに松永のところまで近づいて詰め寄る。
「もう! 浩太くんはなんでそういうところまで開けっ広げに話しちゃうの!?」
「え、えっ? お腹痛いのくらい話しても良くない?」
「そうじゃなくて、産賀さんに……恥ずかしい言葉……」
「……あー、この前話したやつか。それじゃあ、コホン……お待たせ、俺の織姫。今日も好きだぜ」
「ちょ、ちょっと!?」
完全に外野となった僕は「おー」と声を漏らす。さすがにキザ過ぎるとは思うし、伊月さんも困って……いや、まんざらでもなさそうだ。
その後、松永は伊月さんからちょっと理不尽なお叱りを受けていたけど、なんやかんやで楽しそうだった。
おかげで僕は今晩はぎりぎり星が見えるかなーと、一人考えながら後ろに付いて帰ることになったけど……二人が幸せなら良しとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます