6月14日(火)雨 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その4
梅雨入りした火曜日。その宣言を見たせいか、単に気圧の影響かはわからないけど、何となく体はだる重さを感じていた。前にも言ったような気がするけど、自転車通学という点では毎日のように雨が降るのは好ましくない。
ただ、雨自体は嫌いではないので、雨音に心を落ち着かせる日もある。特に今少しばかりざわついている心にはちょうどいいかもしれない。
そんな雨降りの中、今日も文芸部の活動が始まる。先週の件もあったので僕は路ちゃんの様子を窺っていたけど、今日見る限りは元気そうに見えた。
「はぁー…………」
一方、桐山くんの方はわかりやすく何かあったようだ。先週は日葵さんが悩んでいた(その週の金曜日には復活していた)のを見ると、1年生的に悩める時期なのだろうか。
「どうしたの、桐山くん」
「聞いてくれますか、産賀先輩。実は……俺、最近姫宮さんと話せてないんですよ」
「そっか。がんばってね」
「それで終わりっすか!? もっと話聞いてくれてもいいじゃないっすかぁ!?」
「き、聞くよ。でも、1年生で集まってる時、桐山くんも積極的に喋っているように見えたけど?」
初めの頃はどう話せばいいかわからないと言っていたけど、今は女子3人に囲まれながらも桐山くんは埋もれていなかった。その辺りは僕と違って桐山くんがどちらかと言えば陽寄りの人だからだと個人的には思っている。
「そうっすけど、その時はまぁ混ざって話してるだけで、1対1で話したのは……もういつだったか忘れちゃいました」
「そう言われると、対面で話す機会はそんなにないのか。クラスも違うんだよね?」
「はい。だから……なんやかんや姫宮さんと結構話せてる産賀先輩にコツを教えて貰おうかと」
「こ、コツかぁ……」
桐山くんは期待の目で見てくるけど、僕自身はなぜ姫宮さんと結構話せているかよくわかっていなかった。図書館でたまたま会ったことが良かったのかもしれないけど、それ以降絡んでくれるのは何か別のところに面白さを見つけられているような気がする。
「逆に質問して悪いんだけど、1年生だけで話してる時の姫宮さんってどんな感じなの?」
「それはもうクールビューティーって感じです!」
「そ、そうなんだ。他の印象は?」
「うーん……時々むっちゃ可愛く笑いますね。キュンときます」
桐山くんは真面目な顔で答えるけど、僕が欲しいのはそういう情報じゃなかった。今までの絡みから僕が思うに姫宮さんは結構人を弄るタイプで、割とボケ寄りの人だということだ。つまり、弄られるような人や面白い人は話しかけられる対象になり得る気がする。
それを桐山くんに教えるべきかどうか、僕は少し考えた。もしも桐山くんがそれをそのまま受け取ってわざとひょうきんな奴を演じると……滑ってしまうと思う。いや、気に入る可能性もゼロではないけど、失敗しそうなビジョンが浮かんでしまうのだ。
「今まで話しかけられたところから考えると……ちょっと隙がある人の方が姫宮さんは話しやすいんだと思う」
「隙……っていうと?」
「たぶん桐山くんは気付かないうちに姫宮さんの前だと緊張しているんだよ。だからもう少しリラックスして隙を作ったらいいってこと。僕はほら、いつもこの通り何も考えてなさそうな顔してるでしょ」
「そうっかね? 産賀先輩は結構考え事してるイメージですけど」
「…………ま、まぁ、そういう時もあるけど、そうじゃない時は割と隙があるから話しかけて貰えてるんじゃないかな」
「なるほど……ありがとうございます! 参考にさせて貰います!」
桐山くんは体育会系のようなテンションでそう言う。僕が考えたことを遠回しに伝えたつもりだったけど、桐山くんに何となくでも伝わっただろうか。
でも、少なからず桐山くんが意識し過ぎているとは思うので、自然体で話せば何か変わるのではないかと勝手に思っている。
それにしても……傍から見ると僕が結構考え事してる風に見えているのは驚いた。
いや、実際のところ今も気にしなくていいかもしれないことを長々と考えているのだけど……察せられるほど表情や態度に出さないようにしたいと思った。
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