6月13日(月)曇り 野島実香との日常その4

 ぼんやりとした月曜日。宣言されていた通り、この日僕が野島さんと最初に顔を合わせると、すぐに聞かれることなった。


「おはよう、産賀くん! 清水先輩とのデ……お出かけどうだった!?」


「…………」


「えっ。その……なんかごめん」


 でも、僕はそんな声が届かないくらいもやっとした感覚になっていた。もしも野島さんの質問に答えを出すならば、可もなく不可もなく……いや、もしかしたら失敗だったのかもしれない。清水先輩が何か引っかかっていたのにそれを放置して僕は昨日の時間を楽しんでしまった。


「あの、産賀くん。もしかして喧嘩したりとかそういうやつ……? 私に情報が漏れてたことがきっかけで争いが起こったとか……」


「い、いや、違うよ。喧嘩はしてない」


「ほっ……じゃあ、何があったか聞いてもいい?」


「何かと言われると……たぶん、僕があんまり良くないことを言ってしまったんだと思う」


「地雷を踏んだってこと? それで清水先輩が不機嫌に?」


「不機嫌というよりは悲観的な感じだった」


「悲観的かぁ。内容を聞かない限りは何とも言えないけど……結構前の清水先輩はそういう感じあったかも」


 野島さんは何かを思い出しながらそう言う。


「結構前って?」


「私は茶道部に入ってから暫くの間だから1学期辺りかな。私としては清水先輩と産賀くんの話をするようになる以前のことだけど」


「その頃の清水先輩ってそんなにネガティブな感じだったの?」


「関わり合いが薄い先輩だったからそういう印象もあるかもしれないけど、ポジティブかネガティブかで言えばネガティブだったと思う。産賀くんはそういうネガってるところは見たことなかったの?」


 そう言われて思い返すと、桜庭先輩と喧嘩していた時に凹んでいた時を思い出す。けれど、今回のそれは普通に会話しているつもりだったところから唐突にそうなったから、原因が掴めない。


「ないわけじゃないよ。ただ……僕の気にし過ぎかもしれない。それ以外の時は楽しそうにしていたし」


「うーん……ちなみになんて言ったかまでは教えてくれ……ないよね?」


 野島さんは遠慮気味にそう言う。ここまで話してしまったのなら変に隠しても仕方がないので、僕はその時の会話をかいつまんで野島さんへ教えた。

 すると、野島さんは真剣な表情で考え始める。


「水族館にトラウマがあるならそもそも今回のデ……お出かけに誘うわけないよね」


「もうデートでいいよ」


「それなら水族館デート以外のところで何か変なこと言ったりとかは?」


「身に覚えがないけど……」


「だよねー だったら、わからないなぁ。わがままって言うのも別に産賀くんは喜んで付き添ってるわけだし、それに思い当たるところもないよね?」


 僕は頷くと、野島さんはもう一度考えてくれるけど、とうとうお手上げ状態になった。


 その結果、ひとまずこの件は僕の気にし過ぎということで保留された。野島さんは部活の時にそれとなく探ってみるとは言ってくれたけど、それでわかるなら昨日の時点で続きを話してくれていたと思う。


 先週とは同じくまた気になることを抱えたままの一週間が始まってしまった。

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