5月11日(水)雨 拡散する大山亜里沙その5
ようやく折り返しの水曜日。しかし、僕の疲労感はGW明けが理由ではなく、ここ数日のちょっとした環境の変化のせいだと思われる。
「あっ……良助くん。これ落としたよ」
「ああ。ありがとう……路ちゃん」
「ん? んん!?」
そして、当然ながらその変化は周りからも気づかれるものだった。先ほどのやり取りが目に入った大山さんは、僕と路ちゃんを交互に見る。
「ミチ……何があったの?」
その結果選ばれたのはミチちゃんの方だった。僕はその会話をなるべく聞かないようにと思っていたけど、薄っすらと文芸部内の事情を話しているのが耳に入ってくる。
「なる~ いきなりだからびっくりしちゃった。いや、2日前から呼んでたんだろうケド、全然気付かなかったし」
「それは……まだあまり呼び慣れていないから声が小さかったのだと思うのだけれど……」
「そっか~ じゃあ、この機会にアタシも呼び方変えてみようかな」
大山さんはそう言うけれど、路ちゃんの呼び方は僕の知らないうちにミチに変わっていたので、これ以上変えようがないと思っていた。
「これから呼び方を変えるの……?」
それは路ちゃんも同じように思ったようで大山さんへ聞き返す。
「いや、ミチじゃなくて。うぶクンの方。名前で呼んでみてもいいかなって」
「えっ……」
「あー……でも、うぶクンって呼び方結構気に入ってるからなぁ。それよりもアタシの方を名前で呼んで貰おうかな」
「ええっ!?」
「なんでミチが驚いているの?」
「あっ……そ、そうだよね。わたしが驚かなくてもいいよね」
そう言った路ちゃんがどういう反応をしているのか見られないけど、聞こえてる僕は同じタイミングで驚いていた。
そんなついでのように言われても困る。ただでさえ、路ちゃん呼びに苦戦しているところなんだ。
「……で? うぶクン的にはどう?」
「うわぁ!?」
いつの間にか椅子を寄せていた大山さんを見て僕は驚く。
「あれ? 聞こえてると思ったんだケド」
「ま、まぁ、半分くらいは」
「じゃあ、うぶクンは新しい呼ばれ方or呼び方ならどっちがいい?」
「どっちか選ばないと駄目なの?」
「本当にやるかどうかは別として決めてみてよ。さぁさぁ」
「ど、どちらかと言えば…………」
「言えば?」
「…………呼ばれる方かな」
「へー、そうなんだ。でもなぁ。明莉ちゃんは亜里沙お姉ちゃんって呼んでくれたんだけどなぁ」
「それはお姉ちゃんの方が印象に残ってるやつでしょ」
「バレたか。ていうか、あの時のうぶクン、本当にちょっとジェラっててさ」
「ジェラってない」
「あっ、そうそう。GWの話でいうと……」
その後、大山さんがGWの話題へ切り替えたことで名前のことは有耶無耶になった。
大山さんがミチと呼ぶようになるまでにどんな経緯があったかわからないけど、たぶん僕よりもとんとん拍子に進んでいったに違いない。
そう考えると、大山さんの僕の呼び方が急に新しくなる可能性もあるかもしれないと思った。
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