10月6日(水)曇りのち晴れ 清水夢愛の夢探しその2

 少し忙しない空気がある水曜日。本格的に学校が飾り付けられるのは金曜日だけど、校内の所々には展示用のボートや普段は見ない備品など、文化祭に使われるであろう物が見え始める。


 その空気に浮かれているわけではないだろうけど、教室のクラスメイトの声も何だか盛り上がっているように感じだ。

 そんな中で別に文化祭じゃなくても盛り上げるタイプの松永が僕に話を振る。


「そういえばりょーちゃん。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの?」


「……何を?」


「ほら、ミスコンの話だよ」


「ミスコン? ミスコンってあの……美少女コンテスト的なやつのこと?」


「おいおいりょーちゃん……もしかして本当に知らないの!? 先週の金曜日に貰ったプログラムに載ってたでしょ!?」


 松永は本気で驚いていた。明莉と話していた時に確認したつもりだったけど、どうやら僕の目は節穴だったようだ。


「そ、そう言われても……大倉くんと本田くんも知ってたの?」


「い、一応は……」


「まぁ、良ちゃんは文芸部で忙しいだろうから仕方ない」


 本田くんはフォローしてくれるけど、二人ともちょっと驚いている感じだった。もしかしたら男子の中で一番アツいトピックスに付いていけてないのかもしれない。


 すると、驚きから立ち直った松永は少し残念そうに喋りだす


「じゃあ、清水さんはミスコン出ないのかぁ」


「それが聞きたかったのか。でも、僕が知らないだけで、どうなるかはわからないよ」


「りょーちゃんは清水さんがそういうの出そうなタイプだと思う?」


「それは……」


 そう言われてしまうと、可能性は低いと思ってしまった。いや、仮に出場するとして僕に教えてくれるわけではないけど、清水先輩はナンバーワンではなく、オンリーワンを目指すタイプだ。自分のビジュアルに自信があっても競い合うことは望んでいないと思う。


「どっちにしろ見に行く予定だったけど、ちょっと楽しみが減ったなー」


「というか松永。そんなに清水先輩のこと気にしてたのか」


「そりゃあ、俺は清水先輩のファンだし。あっ、別に恋してるとかじゃなくて、アイドル的な感覚だからそこはよろしく」


 彼女さんへの配慮を松永は付け足す。ただ、そんな松永の名前を清水先輩は忘れているのだから一方的なファン目線だ。



 休み時間の話を終えた後。僕は通常通り授業を受けていたけど、さっきの話が頭の中に残っていた。清水先輩自身はミスコンに出そうにないタイプだけど、仮にも五大美人と一部で言われる人だから出てもおかしくはない。


 無性に気になってしまった僕はスマホを手に取ってみるけど、いつも通りの僕の悩み方でなかなかメッセージを送れない。それを僕が聞いたところで清水先輩に不都合はないはずなのに、気軽な雑談の話題として振っていいものかと考えてしまう。


(……別に直接聞く必要はないんだ)


 そう思った僕は挨拶と共に文化祭の舞台でやる演目についてメッセージを送ってみる。すると、清水先輩は思った以上に早く返信がきて、暫くやり取りが続いた。卑怯と思われるかもしれないけど、遠回しにミスコンの件へたどり着こうとしたのだ。


 そして、その結果……


――ミスコン? ミスコンってあの……一番強い美女を決めるやつか?


 僕とはちょっと違うけど、そもそも知らなかったような反応が返ってきた。それを見て僕は何だか安心する。


 詳しくは知らないので僕は「そういう感じです」と少々適当な言葉で返信すると、そこで授業が挟まったので僕は一旦スマホから目を離す。


 そして、授業が終わってから再びスマホを見ると、数件ほどメッセージが貯まっていた。


――なるほどなぁ

――じゃあ、出てみるか

――今からエントリー間に合うのか?

――いや、良助に聞いてもわからないか。すまない


「えっ!?」


 思わず周りが少し驚いてしまうくらいの声を出してしまった。何でもないと言いながらもう一度メッセージに目を通すと、確かに清水先輩はミスコンに出ると言っている。

 それにどう返信するか迷っている間に、また次のメッセージが送られたきた。


――ミスコン出られるみたいだ!

――あんまり集まってないらしい

――日曜日の13時頃だが、良助は見に来れるのか?


 話は既に進んでしまい、清水先輩の出場が確定してしまった。意外過ぎる展開に僕は直近の質問への回答ではなく、自分の疑問……なんで急に出る気になったのかと聞いてしまう。


――夢探しの一環だ

――もしかしたら私のやりたいことかもしれないだろう?


 シンプルな返答に僕は「そうですか」としか返せなかった。文化祭のミスコンが夢探しに関わるのかと言われると……人前に出ることや自分のビジュアル性を売り出すことが何かに繋がる可能性はある。だけど、まさか僕が言ったことでこんなことになるとは思わなかった。


 図らずも松永の願いを叶えることになってしまった僕は先ほどとは打って変わって妙な不安に包まれていた。自分が出るわけじゃないのにそう思ってしまうのは……どうしてなんだろうか。

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