10月5日(火)晴れ 岸本路子との親交その4

 本来ならミーティングがある火曜日。昨日から文化祭に向けた準備が始まっており、今日も内装に使う飾りやパネルの作成を主にやっていく。結局、出し物としては森本先輩が言っていた作品展示とおすすめ本の紹介、短歌の制作コーナーになった。


 そんな作業中に森本先輩は用紙を配り始める。今日は長らく考える時間を設けられていた短歌を提出する日でもあった。


「ペンネームは創作物と別にしても構わないよー まー、めんどくさいから同じ名前使う人ばっかりだけどー」


 僕としては新しく考えるアイデアがないので、「ダイ・アーリー」を使うしかない。短歌に並ぶ名前として見ると、やっぱりもっといいペンネームを考えるべきだった。


「これでお願いします。ところで、短歌の展示ってどうやるんですか?」


 僕は提出用紙を森本先輩に渡しながらそう聞く。


「ちょっと大きめの紙に印刷してボードに貼り付けるよー 本当は手書きでそれっぽく書いた方がいい感じになるんだろうけど……ウーブ君は習字できたりー?」


「す、すみません。授業でやったくらいで入賞したことありません」


「一緒だから謝らないでー ちょっと前の先輩方は達筆な人がいて書いてたらしいんだけど、こればっかりはしょうがないよねー」


 森本先輩はお手上げの身振りをする。手書きの短歌や詩を展示されているのはテレビとかで見たことがあるけど、確かにそっちの方が見映えが良い。うちの高校に書道部があれば……と思うのは他力本願かもしれない。


「森本さん、わたしもこれでお願いします」


「はーい。岸本ちゃんはどんな短歌を詠んだのかなー?」


「そ、そんな今見られるのは……」


「フフフ。こればっかりは部長特権だからなー まぁ、部員の人数が限られるから最終的には誰がどれを書いたのかは何となくわかっちゃうんだけどねー」


 恥ずかしがる岸本さんに森本先輩は笑いながらそう言う。僕は今のところ岸本さん……冬雷先生しか知らないけど、他の部員の作品も察せられるのだろうか。いつも関わる先輩方なら何となくわかりそうな気がするけど、あまり関わらない先輩の作品が混ざるとどうなるかわからない。


「産賀くん……」


 そんなことを考えながら完全に作業の手を止めてしまった僕に岸本さんは話しかける。その表情は尚も恥ずかしそうだった。


「どうしたの?」


「わたし、産賀くんにペンネームを教えたことを少し後悔しているわ……短歌のことすっかり忘れてたから」


「そ、そんなに? 小説と短歌でそんなに違いは……」


「あ、あるの。その……上手く言えないけれど、感覚的に」


 岸本さんはそう言うけれど、僕はどちらも同じだと思った。もちろん、自分の作品を人に見られることには一定の恥ずかしさはあるけど、創作したものでは違いは……あるか。今回の二つは似たジャンルだけど、たとえば僕も小説と絵で比べたらペンネームで本名を隠していても絵はそんなに見てほしくない。


「じゃあ、なるべく展示の名前はなるべく見ないように……」


「そ、そこまではしなくていいわ。作品はちゃんと見て欲しいし……」


 ただ、岸本さんの感覚はそれともまた違うようだ。まさしく上手く言えない感覚なのかもしれない。


 そんなこんなで短歌の提出は無事に終わって、後は展示場の準備を残すだけになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る