10月7日(木)晴れ ソフィアと藤原その4 

 準備日を直前に控えた木曜日。しかし、文化部的には今日明日で展示を仕上げなければならないことから実質的に放課後から準備期間に入る。

 装飾については前日までにほぼ完成したので、今日は展示する教室内の机の移動や展示用のボードの運搬、備品の整理をしていく。こういう時こそ男子の力が欲しいところだけど、来ている男子は僕と藤原先輩、それに久しぶりに見た新山先輩だけだった。


「あー 産賀くん、もうちょい右かな。そうそう」


 しかも新山先輩は指示に回るからボードは全て僕と藤原先輩で運ぶことになった。誰かあと一人来ていればもう少し楽だったと思ってしまうけど、愚痴を言っても仕方がない。


 それからある程度配置を整えると、今日の準備は終了する。居残りで際限なくやらないように明日の準備日があるのだから、学校側も今日のところは早く帰ることを推奨しているようだ。


「準備の準備はこれで終わりですけど、当日のシフトについてのお知らせでーす。基本は部長・副部長のどっちかは待機していますが、どうしてもこの時間は外せないっていうのがある人は事前に知らせてくださーい」


 森本先輩がそう言うと、何人か先輩方が手を挙げて時間帯を言っていく。思い付くのは清水先輩のミスコンくらいだけど、どうしても見に行く必要があるわけじゃないから僕は手を挙げなかった。


「了解でーす。後でざっくりとしたシフトをグループに送りますが、明日までなら変えられるのでお気軽にー それでは皆さん、明日と本番もよろしくお願いしまーす。あっ、ウーブくんと岸本ちゃんはちょっとこっち来てくれるかな?」


 呼ばれた僕と岸本さんは森本先輩の前に集まる。


「さっき言った通り基本はあたしか汐留がいるし、二人とも見に行きたいものがあればそれを優先していいんだけど、それ以外の時間はなるべく居て貰って大丈夫ー? 一応、文化祭は2年生が中心になるから来年のためにも色々覚えておいて欲しくてー」

「大丈夫です。今のところ友達とちょっと回れたらいいので」

「わたしも全然大丈夫です」

「ありがとー まー、他の部員もいるから全然暇そうなタイミングで見に行くのも全然OKだし、その辺は臨機応変にー……あっ。でも、一つだけ」


 森本先輩は急に表情を切り替えて、僕と岸本さんにもう少し近寄るよう手招きをする。そして、ひそひそ声で話し始めた。


「ソフィアとシュートくんが一緒のタイミングで休憩入れるようにする時だけは協力してくれるー?」

「……わかりました。それも大丈夫です」

「悪いねー でも、文化祭っていいタイミングだからー 岸本ちゃんも大丈夫そう?」

「はい。わたしも別に……って、もしかしてそういうことですか!?」

「いやー そういうことになるかはわからないけど、そういうことになってもいいようにねー」


 森本先輩と岸本さんの指していることが一致しているのかわからないけど、近い意味であることはわかる。未だに二人の関係が何以上何未満か定かではないから何とも言えないけど、要するに文化祭イベントのための配慮だ。


 僕がそういうことに対して、どういうスタンスでいればいいか最近迷うこともあるけど、少なくともこの二人については純粋に応援していい気がする。

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