10月1日(金)晴れ 桜庭小織の野望その2
10月の始まり。9月の後半から徐々に涼しい空気になり、今年は比較的秋らしさを感じられたから10月も暫くはそうであって欲しいものだ。
今日は7時間目に生徒会選挙が行われる。体育館で全員のスピーチを聞いた後、教室に帰ってから投票を行うという流れだ。選挙管理委員は放課後に残って開票し、月曜日の朝に結果が発表される。
ただ、今年は事前に立候補者の情報が回っていたのか、それともこの高校の生徒会は敷居が高いのか、必要な役職に対して立候補した人はそれぞれ一人ずつだった。
つまり、何か間違いが起こらない限りは今日いる全員が新たな生徒会であり、選挙はあってないようなものである。
思い返してみると中学の時は会長の座を二人で争った選挙があったような覚えがあるけど、それ以外の役職は同じような状況だった。
自分が立候補するつもりがないので、わざわざ生徒会なんてやりたくない気持ちは十分わかる。でも、もうちょっとやりたい人がいてもいいんじゃないかと身勝手ながら思ってしまった。
『続いては副会長に立候補した桜庭小織さん、推薦者の清水夢愛さんお願いします』
それでも桜庭先輩と清水先輩が出るのだから僕は真剣に聞く必要がある。後で桜庭先輩に感想を聞かれて中途半端に感想を答えたら何を言われるかわからない。
そして、それ以上に清水先輩の推薦者としてのスピーチに普通に興味があった。実のところ本番になるまで清水先輩が推薦者として喋ることは知らなかったので、司会者に名前が呼ばれた時、また驚いてしまった。立候補に付いて来ていたのだから当たり前なのだけど。
「桜庭小織の推薦者の清水夢愛です。桜庭さんを推薦する理由として一番大きなところは彼女が気遣いの人であることです。それは私だけなく、彼女の周りからもよく聞く意見で――」
普段は名前呼びをしている清水先輩が少々よそよそしい感じで桜庭先輩の良いところを挙げていく様子は申し訳ないけど、ちょっぴりシュールだった。清水先輩自身は緊張しているわけでないようだけど、下手な演技をしている風に見える。
それは一番近くで見聞している桜庭先輩も感じているようで、澄ました顔をしているようだけど何となく満足げな笑顔にも見えた。
「――以上のことから桜庭さんの副会長として相応しいと考えています。皆様、清き一票をよろしくお願いします」
終始きっちりとした文章を読み終えた清水先輩が後ろに引くと、今度は桜庭先輩が壇上に立つ。
「副会長に立候補しました、2年の桜庭小織です。私が今回生徒会で活動したいと考えたのには大きく分けて二つの理由があります」
桜庭先輩のスピーチは清水先輩とは反対に堂々たるもので、初めての立候補なのに経験者のような風格だった。
そのスピーチの中で掲げられたのは学園の支配……ではなく、副会長の立場で会長をサポートしながらより良い学校を作ること、具体的には現在の制服に関する制限について風紀を乱さない範囲で自由さを取り入れたいという公約だった。
どんな公約を掲げても桜庭先輩の副会長になることは確定しているけど、僕が知り合いだというフィルターを除いても信頼できるような優等生スピーチだったと言える。
会長候補のスピーチを聞き終えた後、教室に戻った僕たちは投票券に記入して、選挙管理の松永がそれを回収していく。
「どうなるかは来週のお楽しみに!」
「いや、結果はわかりきってるから」
「りょーちゃん、俺はそのわかりきってる票をこれから丁寧に数えるんだからこれくらいのテンションでいさせてよ」
そう言われてしまうと松永に同情してしまうけど、僕としては桜庭先輩が無事に野望を果たせそうで安心した。これでもしも対抗馬がいたらどうなっていたか……少し見たかった気持ちはあるけど、ともかく良かったとしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます