9月30日(木)晴れ 大山亜里沙との距離間その5
9月最終日。夏休みからの1ヶ月間は体育祭があったせいか凄く密度の高かったような気がする。その理屈で行くと、文芸部のメインである文化祭ではもっと濃密な時間を過ごすことになるのかもしれない。
「わざわざごめんね、うぶクン」
「いやいや。僕もすっかり忘れてたから」
「うぶクンが申し訳なくする必要ないよ。アタシが見せて貰うんだし」
そう言いながら大山さんは現社のノートを写し始める。昨日の晩にノートを持ってきて欲しいとLINEされるまでこのことをすっかり忘れていた。席が離れただけと思っていたけど、その影響は思ったよりも大きいものだ。
「ありがと。数日分だと結構あるなー」
「やっぱり僕が写して送った方が早いんじゃ……?」
「う、うーん……こう言ったら何だケド、一応アタシなりの撮り方ルールがあるんだよねぇ。あっ、別にうぶクンの撮影スキル疑ってるわけじゃないよ?」
「なるほど。自分のやり方があるのは何となくわかるよ。だからこそ自分で板書を取る方が……」
「あー! 聞こえないー!」
もはや大山さんの方もノートを取らないことに対して意地になっているのではないだろうか。しつこく言う僕が悪い……とは思えないので、この思いは永遠に平行線だ。
「そういえば月曜日にカラオケ行ったんだよ? 瑞姫と本田、それに松永と」
「へぇ、そうなんだ」
「あれ? うぶクンも連絡だけは行ってたんじゃないっけ?」
「あっ……う、うん。連絡は貰ったけど、どこへ行くかまで聞いてなかったんだ」
「そうだったんだ。月曜日は何してたの?」
「え、えっと……部活関連の締切があって……」
「あー うぶクン、文芸部だもんね。本番は展示見に行かないと」
突然聞かれたので半分嘘を付いてしまった。大山さんにとってはただ遊びに行っただけなのかもしれないけど、その日も本田くんの恋路を進めるための時間だ。ただ、その関わりから僕が暫く離れることにしたのは大山さんが知る由もない。
「今度はうぶクンも行けたらいいね。普段は何歌うの?」
「こ、今度かぁ」
「あれ? もしかしてカラオケ苦手だったり? 一回行ってるのは見たけど……」
「いや、その……歌える曲が結構マニアックだから一般受けする歌があんまり歌えなくて」
「アニソンとかアイドルソング系? アタシは全然大丈夫だよ? そういうのも歌うし」
それから休み時間が終わるまでの間、大山さんのカラオケトークを聞くことになったけど、僕は複雑な気持ちだった。本田くんと大山さんの件に関わらないことは決して大山さんと話したり、遊んだりできなくなるわけではない。
でも、僕がその件から離れている限りは安易にそういったことをするのはどうかと考えてしまう。誰に言われたわけでもないのだから気にするだけ損なのに、僕の性格がそうさせてしまうのだ。
これからもこういう小さな嘘を付くことになるのは……仕方ないことなんだろうか。
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