9月18日(土)曇り時々晴れ 僕の名は

 本来は体育祭だった土曜日。台風の影響から雨が降る可能性が高いと数日前の天気予報では言われていたけど、お天気キャスターや学校側の予想に反して台風は昨日の夜のうちに過ぎ去り、僕が目を覚ました頃にはお日様が見えていた。

 でも、木曜日に延期すると決めてしまったことから今日はそのまま休みになった。明日にはグラウンドも完全に乾いていることだろう。


 ただ、体育祭が休みになったといっても完全に暇なわけではなく、来週に提出期限が迫った文化祭の創作物の仕上げに取り掛かる必要があった。恐らく明後日の月曜日は疲れてそれどころではなくなる。


 そんな創作物は文章についてはほとんど出来上がっていたけど、ゼロから考えなければならないことが一つだけあった。掲載される際のペンネームだ。


 僕は今まで本名以外を名乗らなければいけない媒体を使ったことがないし、妄想で自分の二つ名を考えたこともない。つまり、ペンネームに引っかかるようなことは何も考えたことがなかったのだ。


 そこで僕はこの日の多くをペンネーム候補を考える時間にあてることにした。

 

 まずはベースを決めよう。ペンネームを大きく分けると自分の名前の要素が入るか、全く入っていないかの二つに分かれると思う。今回は文芸部としての作品だから多くの目に留まるとしても本名が割り出されて困ることはあまりないだろう。

 ただ、知り合いに後で聞かれることを考えると、それが自分とわかりやす過ぎるペンネームは何だか恥ずかしい気がする。だから、名前の要素入れるなら結構遠回しにしたり、アナグラムを用いた方がいいかもしれない。


 一方、全く入ってない場合は好きな食べ物から漫画の登場人物の名前まで何でも自由に使えるからほぼバレることはないはずだ。今適当に考えるだけでもそれをペンネームと言い張ればペンネームになる。

 しかし、こちらも後から知り合いに聞かれた時に恥ずかしいと感じないような単語を選びたいところだ。中二病要素のある名前はかっこいいかもしれないけど、あまりその分野に明るくない人から見ると痛いと思われてしまう。


 そんな風に考えていると、ベースを定めるだけで結構迷ってしまって、なかなか進まなかった。普通はこんなに考えずに直感で決めた方が案外いい感じになったりするのだろうけど、僕の場合は誰かに知られたらという部分で色々考えてしまうのだ。


 そうなると、ここは思考をリセットした方がいいのではないか。そう思った僕は雨の感想を交えながらいつものルーティーンであるこの日記を書き始めたのだ。

 そして……どうしようか。まだ思い付いてない。もう名前の要素を入れる方は更に深みへハマりそうな気がするからナシとして、自由に考えるとしたら。好きな単語の組み合わせか、どこかの名前をお借りするか。


 いや、思い付いた。文芸部の冊子に載せるならこれくらいがちょうどいい気がする。何せ、これの元を知っている人はほとんどいないから、この名前で僕を導き出すことは難しいだろう。


 よし、ペンネームは「ダイ・アーリー」に決定しよう。


 ……明日以降の僕がこれを読んだり、思い返したりして気に入らなくても変えないことをおすすめする。たぶん、考え直すと決められなくなってしまうから。

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