第17話【ナツ ノ オワリ】

 四方を障子に囲まれた部屋の中、中央に置かれたこたつに陣取る4つの影があった。だがその影は二つふやけており、もう二つは混乱の表情を浮かべている。それは正しく勇者陣営と魔王陣営の対立、世界の運命さだめ。感情の温度差か身体が冷え込むこの卓上で、最初に言葉を発する勇者がいた。


 「いやー終わった終わった、夏がやっとおわったよ」


 「肯定、長く楽しい戦いだと記録されています。NTTです、東○本です」


 「……あの、のぉ」


 困惑する魔王と、休日モードの勇者、目が死んでるコリン、蜜柑を食べる機械っ娘。喋るに喋れない魔王陣営に、助け舟とも呼べなくはない敵戦艦が突撃する。


 「祭り楽しかっな〜、魔王。結局バトルには負けたけど次は勝つからな?首洗ってまっとけ」


 「そこ!?吾輩はそこの記憶ないぞ!?というか機械っ娘を探していたはずなのに、何故機械っ娘がここにいる!」


 「機械っ娘ですこんにちは。私が説明しましょう」


 言うと機械っ子は、今度はスー○ーカップを食べ始める。それも流暢にコーヒーを注いで、ゆっくりと水面を吹いて、コーヒーとアイスの狭間を削るようにして食べ始める。この間30秒、説明待ちの魔王は待たされ続けた。


 「では説明します、スーパー○ップの良いところは多々あります。一つ、量が多い」


 「いや、それはいいからの?この状況を説明してほしいのだ」


 「この状況、ス○パーカップにコーヒーを淹れる伝統的な食べ方のことですね。説明してやってさしあげましょう」


 「そうではなく……ああ、勇者説明しろ!」


 と、言って魔王は気がつく、対面に座っていたはずの勇者がいない。いや正確には寝そべっているだけなのだが、仮にも敵である魔王の前なのだから勇者らしくしてほしいものだ。魔王は仕方なく、勇者がいそうなところに沸騰したお茶を注ぐことにした。


 「あっつ。たーおはよ」


 「人間の割には反応薄いな、勇者よ。魔族でも転がり回る拷問だぞ」


 「まあ、なんというか勇者補正ってことで、はい。この空間そこらへん適当だから」


 勇者は、一つ伸びをすると、半分起きていたのか話を聞いていたようで、この状況について説明しだす。それを聞いて一同皆名状しがたきデジャブを感じていた。


 「ズバリこれは、続編出すのに時間を掛け過ぎた作者が夏の終りとともに祭り回を有耶無耶にしようとしているわけだ。ちなみに前回同様記憶は消える」


 「ニューマスター、前回とはなんのことです?」


 「は?……なんのことだっけか?あっ、それと伝言なのだが、いつかは分からないけど祭りの続編は出すらしい。というか書きたいのにアイディアが出ないらしい、ので、俺らは無いはずの祭りの記憶をさもあるように振る舞わなければならない訳だ」


 「魔王様、あの勇者すっっっごいメタなこと言ってますけど、ストーリー上大丈夫なんですか?」


 「うむ、お前も大概だぞコリンよ。しかしまあ、この亜空間ならその心配もいらぬ。漫画でたまにあるネタ回だと思ってくれ」


 「まさか魔王様から漫画という言葉が出てくるとは思いませんでした、なにせ私たちの知らないはずの言葉ですし」


 そう言いつつ、亜空間という言葉に興味を示したのかコリンは障子を開けてみた。その奥に見たものは……ひたすらの闇と、まばゆく光る小さな星粒、まるで宇宙に放り出されたかのような情景であった。コリンは一抹の感動の末、恐怖が身体の底から溢れ出る感覚に見舞われて障子を締め切った。そして、震えながら魔王の隣に入ってきた。


 「……マイハニー、初期とキャラ変わった?」


 「鑑定するに、その会話形式は不快感を与える要素が強すぎます。『直近の感情的変化を言ってください』と言うのが適切です」


 「機械と勇者にいじめられました、泣いていいですか?というか、魔王様の前であんな強気モードとりません、馬鹿にしないでください」


 「カワイイ」✕勇者&魔王


 「ニューマスター、そういえば見殺そうとしてましたね。あの詫びがまだです、とりあえずハー○ンダッツをとってきやがれくださいませ。ストロベリーでお願いします」


 「なんでお前あっちのアイス事情に詳しくなってんの?まあ、ほらよ、とってきたぜ」


 機械っ娘は人間で言うところの心臓部、つまり核となるそこにハーゲン○ッツを入れると、三秒後とりだしていい感じに溶けたのを食べ始める。こいつ、ガチでなんで熟知してんの?機械の学習能力すげぇわ。


 「てか、そういや前にデンプンを分解できないとか言ってたけど、他の栄養素は大丈夫なの?アイス普通に食べられてるみたいだけど」


 「ニューマスター、世の中知らないほうがいいこともあるんですよ」


 「……つまり?」


 「消化できない、そのまま残る、身体に悪いと知っていながら食べてしまうということです。人間で言うと、夜中にカプ麺食べてる感覚です。けどご安心、洗浄はしっかりしていますから」


 ……勇者はこのとき、ある決意を胸に抱いたという。そう「※機械っ娘にはエサを与えてはいけません※」という、猿山みてぇな決意を。


 「そういえば、そろそろ眠くなって……」


 「どうしました、ニューマスター?」


 「……機械よ、コリンが吾輩の膝で寝おったわ」


 倒れ込むかのように眠る二人と、残された二人。不審に思いながらも、ただ機械っ娘だけはなんとなく事態を察していた。そう、これはなんとも容易いミステリー。


 「作者が眠くなってきたから切り上げようとしている、ようですね。あと数分もすればこの空間とも時間ともお別れです」


 「そうか、やっと帰れるというべきか、もう帰ってしまうのかというべきか、迷う。尤も、王としての発言なら自国を案じ真っ先に帰るべきなのだが」


 「問、今の魔王は?」


 「吾輩はこの時間に限り、ただの魔族の小娘さ。しがらみから解放されることは本来無いはずなのだがな、こうして実在するのだから不思議だ、消える時間なれども楽しむことができたぞ」


 「そうですか、それはそれは。さて、私たちも眠りましょう。あるべき物語を進めましょう」


 ……こうして、こたつに伏して眠る影は消滅し、その世界は微睡むように崩壊を始める。そして休息の時はいずれ幻となり、現実から乖離されるだろう。ただ、あったかもしれない可能性を残しながら。

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