第15話【フェスティバル !】

 鬼笑茶屋でなんやかんやあった帰り道、そこに魔王の姿も愛しの君(コリン)の姿もない。なんというか、騒がしい数日を過ぎた後の機械っ娘と二人だけで歩くこの時間が、どうにも懐かしく感じた。そんな中、機械っ娘が俺の袖を引く。

 そして……袖が取れたよどうしてくれんだよこれ。


 「ニューマスター、5時の方角から比較的うるせぇ音が聞こえてきます。推測結果、太鼓と判明。行くべき、行かないと人生100%損すると断言」


 「100%の損て何!?俺の人生はお前と祭りに行くためだけにあるわけじゃねーからな!?」


 「行きましょう行きましょう行きましょう行きましょう行きましょう」


 太鼓の音が聞こえないぐらいに大音量で「行きましょう」コールする機械っ娘。怖いし煩いから止めろ、てか祭り会場に迷惑かけてるだろうから止めろ。ガチでこの村出禁になるぞ!


 「はぁ、分かった行くよ。その代わりお前リンゴ飴奢りな」


 「自分が行ってやる、という驕りが見えますのでニューマスターが何かを奢るべきです。マスターが好んでいた『ヤキソバ』なるものを所望します」


 「機械が焼きそば食うのか……まあ、俺も食べたいし奢るかは別にしてとりあえず行くか」


 ザザザザザ(久しぶりに某RPG風移動音)


 と、いうわけで付きました祭り会場!すげ〜この世界に鳥居なんてあったんだ。ちょっと感動だわ、逢魔が時に別世界にワープできたりしないかな。……いやそれだと帰ることになるのか?


 「見て下さいニューマスター、屋台がたくさん並んでいます。わー、わーー、わーーーー!!」


 「お前、喜んでるのはいいが棒読みすぎて普通の人には伝わらねぇぞ」


 「大丈夫です。感嘆符を付けたので」


 「分からねぇよ!?それが普通の人には一番分からねぇよ!!?」


 さて、俺のツッコミも華麗にスルーして屋台に全力ダッシュする機械っ娘。いや〜無邪気だ、無邪気に風圧で屋台をぶっ飛ばしてる。オイオイ、そろそろ止めろ。食う前から胃がいてぇぞ(怒)。


 「……う?勇者ではないか、奇遇じゃ」


 鈴がなるような綺麗な声が聞こえて、俺はそれに対峙する。あー、なんでいんだよ。

 魔王降臨。ラスボスがこんな序盤の村で呑気に祭り楽しんでていいんですか?暇なんですかそういえばそうでしたねw

 ……てか、浴衣が意外と可愛くて腹立たしいんだけど。しかも明るい系!魔王なのにタンポポ刺繍の空色!子供かよ!?


 「なんで浴衣カワイイの?勇者として許せないんだけど、マジ」


 「ふむ、そうよな吾輩もびっくりなのじゃ。まさかあの鬼畜秘書がこんな綺麗な着物を仕立ててくれるとは夢にも思わなかった」


 「いや、そういうことじゃなくて……あぁもういいや服は自由だよな!うん!!」


 ……と、そういえば魔王の影で何かが動いてる。ちょうど何か緑で丸いものがシルエットからはみ出して、って、まさか!?


 「あの、魔王様。そこの変態が言ってるのは恐らく浴衣には胸部がどうとかそういう話題……なのではないでしょうか?」


 チラチラとこちらを警戒する愛しの君、野生の小動物のようなその行動が絶大なるkawaiiを撒き散らしている。これが幸せの湧く泉!これが理想郷!まさにこの鳥居下は別世界であり、楽園。萌えという概念そのものみたいな異形っ娘が俺に怯えてヒイッという表情をたまに浮かべてくれる。なにこれカワイイ、嗜虐心を押し殺さなければきっと俺は法的にアウトな行動を取ってしまうだろう。というか、ヤツ(コリン)の浴衣剥くぞ!now剥くぞnow!!now!!!!!!


 「勇者、吾輩の配下に無礼を働くつもりなら、それ相応の覚悟を持て」


 途端、魔王が刀を構える。いつもは大剣なのにこういう時はムードに合わせるのか、何気に律儀だな……。


 「勝ったほうがそこの天女を貰う。では、尋常に勝負!」


 「はぁ、何度やれば分かる。お前じゃ吾輩は倒せぬよ」


 勇者と魔王のぶつかり合い、手に汗握るワンシーン!そして(魔王の)後には守るべき姫!お互いの主張の上、今戦いの火蓋が切られる!!!その時だった!


 「呼びかけ、チース。帰ってきましたニューマスター、残念な事にヤキソバなるものは見当たらなかったので月見そばを食べてきました。デンプンが分解できませんどうすればよろし?」


 「早ぇーよ!?行って帰ってくるまで何秒だよ!?つか月見そばあるの?焼きそば無いのに?」


 「ふむ、機械は通常服であるか。……吾輩の勝ちじゃな!」


 「否定します、魔王ごときの浴衣姿がマスターによって創られた最強の外装に敵うわけがないと確信。寝言は寝て言えカーバ」


 うわ、何こいつらすっげぇ変なところでつっかかるじゃん。というかユウシャと対峙したときよりも魔王が戦闘態勢なの少しムカつく、ダークな感じのオーラとか纏いやがって……カッコ良すぎだろ、俺にも教えろ!?


 「あ、あの……」


 ……と、また戦闘を遮る声。しかし今回はけたたましい機械音相棒の声ではなく、落ち着いた声___というか怯えた声だった。嗚呼、愛しのマイハニー、そんなに怯えてどうしたんだい!(元凶)


 「すいません魔王様、私そろそろ行きます。祭りの運営がありますので」


 「……そうか。頑張るのだぞ」


 魔王は、笑顔でコリンを見送った。だけども……その顔は、少し悲しそうにも見える。

 明るい提灯には目もくれず、魔王は空に輝く星を見ていた。そして俺たちに向き直る。


 「吾輩は、ここいらで帰るとする」


 祭りは始まったばかりで、まだ花火すら(あるかは分からないが)上がっていない。それなのに帰るとは、何か用事でもあるのだろうか?

 気になって、俺は訊いた。


 「どして?」


 表情は変わらない、声色も変わらない。魔王はただ常識を、正論を話した。


 「一国の王が護衛も無しに外出するのは、幾ら強かろうとも駄目であろう。……こう言うのは適切ではないかもしれないが、達者でな」


 帰っていく魔王の背中は、威風堂々としていて誰よりも強く、威厳があり、誰もが殺気すら感じる。だけどもそれは何かを押し殺しているように俺には見えた、いや___俺たちにはそう見えた。


 「なあ、機械っ娘」


 「オールパーフェクト、


 お互いの言葉に、俺たちは不敵な笑みを浮かべる。こいつめ、笑えないくせに無理して笑いやがって、本当に機械らしくねぇな。


 「「おう!魔王」」


 俺らは大声で声を出す。鳥居の下は、どこかで催し物があるためかもう人はほとんどいない。好都合だと思って、俺らは挑発的な態度で言葉を投げる。


 「まだ戦ってねぇのに、逃げる気かよ」


 「マスター作の最高最強の外装を否定された状態で逃がすのは得策ではありません。素直に潰されやがれくださいツノ頭」


 「……はぁ、まだやるのかお前たちよ」


 魔王は指一点に魔力を集中させる、それは触れれば機械っ娘ならまだしも俺なら一瞬で霧消する威力だ。戦いを楽しむ気は無し、速攻で終わらすという意思を感じるその行動に、俺たち二人はただ


 「確定、魔王はバカである」


 「……はぇ?」


 混乱する魔王に、俺たちはヒジョーに常識的なことをレクチャーするのでした。


 「「せっかくの祭り、廻る前に終わるなんて面白くねーじゃん!」」


 唖然とする魔王、その手を機械っ娘が掴み駆け出す。俺は財布を投げてリンゴ飴に変換し駆け出す。


 「一緒に廻ることを特別に許可します。その後は戦闘です」


 「それまでは俺らが、形だけの護衛になってやる」


 ___その時、空に一輪の花が咲いた。

 そのせいだろう、魔王の頬は少し明らんで見える。魔王は不敵に笑い、俺たちを睨みわらうのだ。


 「バカじゃな、お前たちは」


 一滴の雫が瞳に見えた気がして、俺たちは笑って返す。


 「「お互い様だろ!」」


 祭りは、まだ始まったばかりだ。

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